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19 ドッキリ?ドッキリ!ドッキリ……!?

「いよっ、ご両人! お帰りなさぁい!」
 
 スタジオに戻った私たちを出迎えたのは、なぜだか歓迎ムードでいっぱいの出演者とスタッフだった。
 
 番組をぶち壊した二人なんだから、もっと険悪なムードが漂っててもおかしくないはずなのに。
 みんな笑顔で出迎えてくれて、しかも拍手までしてる。
 
 まさか、さっきのプロポーズも全部含めて、やっぱりドッキリ!?
 なんて、思っちゃったんだけど(ほんと、職業病だ)。
 そうではないことは、諒くんの顔を見ればすぐに分かった。
 諒くんは私の手を握ったまま、ぽかぁんと立ち尽くしている。
 
『鳩が豆鉄砲食ったような顔』って、こういう顔のこと言うんだわ。
 
「えっ……なんで?」
 
 諒くんがようやく言葉を発した。
 
「後ろ、後ろ!」
 
 男性陣の座っている席から、声が聞こえてきた。
 あれ、『Hinata』と『SEIKA』の、諒くんを除いて5人いるはずなのに、2人しかいない。
 私と諒くんが後ろを振り向くと、Hinataの樋口くんと、SEIKAの竹ノ原くんが、テレビカメラを抱えて立っていた。
 
 樋口くんは、ニヤリと笑って、
 
「『高橋諒のプロポーズ大作戦』、生でオンエア中!!」
 
 ちょっっっと待ってよっ。
 まさか、さっきの、全国ネットの生放送(しかも、クリスマス特番)で流れちゃったの!?
 
 諒くんは、『やられた……』という表情で、がっくりとうなだれた。
 
「おぉい、連れてきたぞぉ」
 
 そんな声と共にスタジオに入ってきたのは、Hinataのもう一人、中川くんだった。
 一人の女性の腕を掴んで、引っ張って歩いてくる。
 
 その女性は、あのなーこだった。
 
 
 
 ****
 
 
 
 盟くんが奈々子を連れてきてくれた。
 二人は二言くらい言葉を交わして、盟くんが軽く背中をトントンとたたくと、奈々子は意を決したように、スタジオの中央に歩み出た。
 
 スタジオ中の視線が、奈々子に集まる。
 
「あのぉ、なーこちゃんね。この記事について、ちょっと説明してほしいんやけど」
 
 と、阿部さんがさきほどの新聞を奈々子に見せた。
 
 その新聞を受け取った奈々子は戸惑う様子もなく、軽く目を閉じて深呼吸をした。
 そして、再び目を開けて、視線の先にいる盟くんがやさしく微笑んでうなずくと、奈々子も同じように軽く微笑んで、自分に向けられているカメラに向かって、こう言った。
 
「あたしは、高橋諒の……妹です」
 
 ええええええええええええ!? と、スタジオ中の(僕たちHinataの3人を除く)全ての人が驚愕の叫び声をあげた。
 さっき、僕が阿部さんから尋問を受けていたときのそれよりも、何倍も大きい。
 
「ええっ!? じゃぁ、なんで記事が出たとき、否定もせんと、ノーコメントやったん?」
 
 阿部さんからの質問に奈々子は、重大告白をしたときの真面目な表情とはうってかわって、しれっと答えた。
 
「えー? だって、みんなカンチガイして盛り上がってるの、面白かったしぃ」
 
 コイツは…………。
 
 みんなと共に衝撃を受けて固まっていた彼女が、はっと我に返った。
 
「えっ……ちょっと待ってよ。じゃぁ、『諒クンはあたしのもの』とか言ってたのは、なんだったの?」
「くだらないことを言ったのはおまえか、奈々子っ!!」
「道坂サンには、あたしが妹だってちゃんと説明してあると思ったしぃ。道坂サン、からかいがいがあって楽しいんだもん」
 
 要するに、僕と彼女は、この小悪魔に振り回されてたってことか。
 ……確かに、僕がきちんと説明しておかなかったのが、一番の問題点だったわけだけど。
 
「ねぇねぇ、なんで今まで兄妹であるってこと隠してたの?」
 
 女性陣の誰かが、当然の疑問を投げかけた。
 奈々子は、少し照れくさそうに、
 
「……自分一人の力で進んでいかなきゃ、意味がないから」
 
 と答えた。
 
「でも、盟にぃが、『今のおまえなら、もう大丈夫だろ』って。もし、諒クンの妹だって公表して、あたしの人気とかCDの売り上げとか落ちるようなことがあったら、盟にぃが責任取ってくれるって」
 
 奈々子がそう言うと、みんなの視線が一斉に盟くんに注がれた。
 盟くんが、奈々子にそんなことを?
『責任を取る』って……まさか、つまり、……『そういうこと』?
 
 盟くんは、焦りの表情を浮かべて、顔を紅潮させた。
 
「盟にぃに、そんなプロデュース能力あるのかなぁ? あたしについてるプロデューサーって、超一流の人なんだけど」
 
 責任って、そっち!?
 盟くんは、拍子抜けって感じで、うなだれた。
 奈々子の天然はとどまるところを知らない。
 
 
 ****
 
 
「じゃぁ、そろそろこの人を呼んでみましょうかね」
 
 なーこの重大発表が一段落つくと、阿部さんは話題を変えた。
『この人』って誰だろう?
 私が考えていると、阿部さんが大きなモニターに向かって呼びかけた。
 
「中継先の、花本サーーン」
 
 モニターに、待ちくたびれた花本さんの姿が映し出された。
 そういえば、スタジオにはいないんだった。
 中継先といっても、同じテレビ局内の、別のフロアにある小さな控え室だ。
 
「――――遅いっ!いつまで待たせんねん!!」
 
 花本さんは、ご立腹なようだ。
 
「あのぉ、花本サン、聞いてくださーい」
「なんやねん?」
「道坂サンね、結婚が決まりました」
「……………………………………はぁ?」
「だからね、道坂サンが結婚するんですって。高橋クンと」
 
 花本さんは、固まっている。
 
「…………そんな、ドッキリしかけても、オレは信じへんで?」
「いや、ほんまですって。高橋クン、カメラに見せたって」
 
 阿部さんに促されて、諒くんはそれまでずっとつないでいた私の左手を、そこにはめられている指輪が映るようにカメラの前に差し出した。
 おそらく、花本さんのいる部屋にあるモニターに、その私の左手が映し出されているんだろう。
 花本さんは、しばらくそれを凝視して、言葉も出ないようだった。
 
「ね、ほんまでしょ?」
「…………道坂ぁぁ!! オレら、ずっと『モテない芸人同盟』結んでたやないかぁぁ!!」
 
 そんな同盟、いつ結んだのよ。
 
 花本さんは、暴れ出した。
 スタッフが数人で押さえにかかる。
 
「おまえだけは、ずっと裏切らへんと思うとったのに!! どいつもこいつも、オレを置いてけぼりにして、幸せになりやがって!! おまえらな、全員まとめて不幸にしてやる!! 家に火ぃつけ――――」
 
 バツンッ!!と音を立てて、中継が途絶えた。
『モテない芸人』が、人の幸せを妬んでいるってわけね。
 
『どいつもこいつも』ってのは、ここ数年、私くらいの年代の芸人が、次々と結婚が決まっているから。
 もちろん、花本さんは『不幸にしてやる』とか、『家に火をつける』とか、本気で言ってるわけじゃない。
 
 テレビ的に、そう言ったほうが面白いってだけ。
 あれが、花本さんなりの『祝福の言葉』なんだと思う。
 
 私と諒くんは、顔を見合わせて、苦笑いした。
 
 
 
 ****
 
 
「じゃぁ、お次は、花本サンの隣の部屋にいます、この人」
 
 阿部さんがそう言うと、さっき花本さんが映っていたモニターに、花本さんとは別の一人の男性の姿が映し出された。
 
「……どうもぉ、福山でぇす」
 
 週刊誌の写真に彼女と一緒に写っていた、『関西人気芸人』の人だ。
 ……あ、この顔。
 写真ではよく分からなかったけれど、どこかで……?
 
「あっ! 福山さんだぁ!」
 
 奈々子がモニターに向かって指差して叫んだ。
 
「諒さぁん、……なーこちゃんも、お久しぶりでぇす」
 
 なんで僕(と奈々子)のこと知って………あっ!!
 
「ああああっっ!! おまえっ、もしかして、あの福山か!?」
 
 思い出した。
 地元の中学の、1学年下の後輩だ。
 副番長させられてたときに、レッスンばかりでなかなか学校に顔を出さない僕のところにいろいろと報告をしにきていた、ある意味、弟分のような存在だった。
 
「諒くん、福山くんのこと、知ってるの?」
 
 彼女が、驚いて僕の顔を見た。
 
「諒さん、覚えててくれました?昔、地元で諒さんが副ば――」
「だぁぁ! 後輩っ! 部活の後輩だよっ、中学のときのっ、な?」
 
 実質的なものではなかったにしても、『副番長』の過去は一応アイドルとしては、さすがにマズイ。
 福山は察してか、『その過去』についてはそれ以上触れなかった。
 
「ねぇ、道坂さん、ボクの言うとおりだったでしょう?」
「ほんとね。なんで分かったの? ただの勘?」
 
 僕には話が見えないけれど、福山は彼女に何か言っていたらしかった。
 
「道坂さんがね、『彼に年齢のこととか、キャラのこととか言われた』って話してたでしょう? もしかしたら、それって彼がプロポーズしようとしたんちゃうかな、って思うたんですよ。それは、ほんと、勘でしたけど」
 
 ……そんな話をしてたんだ。
 福山は、そういえば昔から妙に勘が鋭いところがあったけれど、それにしたって、それだけの情報で気づくなんて。
 もしかしたら、福山にもそういう相手がいるのかもしれない。
 
「あとね、『彼が別のコと熱愛報道されてた』って。あの時期、熱愛報道されてた人で、年齢やなんかの条件にあてはまる人って、諒さんしかいないんですよ。で、ボクは同じ中学で諒さんのいっこ下だから、当然、なーこちゃんが諒さんの妹だってことも知ってましたし」
 
 僕と奈々子は歳が3つ違うから、福山が奈々子のことを知っているのも、うなずける。
 
「知ってたなら、なんで教えてくれなかったの?」
 
 彼女は不満そうな顔で言った。
 
「以前仕事でなーこちゃんに会うたときに、『誰にも言わないで』と口止めされてたんすよ。言ったら、諒さんに殺され……じゃなくて、怒られるし」
 
 こいつ、今、何か変なこと言いかけなかったか?
 
「これで、ボクの勝ちっすね」
「……何? 『勝ち』って」
 
 意味が分からず、彼女に聞いた。
 
「福山くんね、勘違いして落ち込んでた私に、『彼とは終わりじゃないから、大丈夫』って言ってくれたの。でも、もしも福山くんの勘が外れて私の失恋が確定したら、福山くんの負けで、私と付き合うってことになってたの。罰ゲームみたいよね」
「……はぁ? 付き合う?」
「諒さん、ボクの勘が外れたらってことですよ」
「福山くん、ごめんねぇ、付き合ってあげられなくてぇ」
「……こちらも、全然そんな気ないですからぁ。よかったです、罰ゲーム受けなくて済んでぇ」
 
 福山は、おどけた調子で言った。
 なんだ、うまく笑いのオチがついたみたいだな。
 
「福山ぁ!! おまえもグルか!?」
 
 なんと、花本さんが突然乱入して、福山の首を絞めはじめた。
 もちろん、本気ではなく、ただのフリだ。……たぶん。
 そういえば、隣の部屋にいるって言ってたな。
 この人は、まだ笑いが欲しいらしい。
 
「じゃぁ、そういうことで、お二人ともお幸せにぃ。スタジオにお返ししまぁす」
 
 花本さんに首を絞められながら手を振った福山の表情が、一瞬、どことなく寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
 
 

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