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20 不審者乱入と、誓いのキス。

 私と諒くんが引き起こした騒動は、福山くんの中継が切れたところで、とりあえず終わって。
 その後、番組は大幅に予定を変更せざるを得なかったんだけれど、まぁそれなりに進んだ。
 
 ……で、番組の最後に『Hinata』と『SEIKA』がそれぞれ自分たちの曲を歌うことになってて、今、Hinataが例のクリスマスソングを歌ってる。
 
 諒くんは、前にテレビで流れてたPVと同じ、とっても穏やかな顔をしてて。
 基本的に、『Hinataの高橋諒』オーラ全開なんだけれど。
 時折、浮かべている照れくさそうな表情は、『普段の諒くん』に戻ってるみたいで。
 そんな瞬間の諒くんの方が、かっこいいな、なんて思う。
 
 
 
 
 
 番組終了後。
 
 生放送で騒動を知った、私と諒くんの事務所関係者がわざわざテレビ局まで駆けつけて(乗りこんで?)来たので、諒くんが事情を報告(というより、突っ走って身勝手な行動をとったので、まずはとにかく平謝り)してくれた。
 
 特に諒くんの事務所の方からは、いろいろとイヤミみたいなことを言われたんだけど(『また、うちの大事な商品を潰す気か!?』とか。そういえば、ずいぶん昔にそんなようなことを言われた記憶がうっすらと……)。
 
 スタジオに残っていたみんな(特に、阿部さん)が、私たちを援護してくれて。
 諒くんも、「お互いの仕事には絶対に悪影響を与えません」と言いきって。
 なんとか、認めてもらうことができた。
 
 
 
 
 その後はバタバタといろんなことがあった。
 
 毎年恒例になっている、年末の『SEIKA』『Hinata』の合同年越しカウントダウン・ライブで、諒くんがファンのみんなに報告して。
 年が明けて、お正月番組も落ち着いた頃に、二人で記者会見して。
 
 諒くんも私も、基本的に面倒くさがりだから、挙式もなしにあとは役所に婚姻届を提出……で、いいよね、なんて話してたんだけど。
 
 阿部さんが、「番組で結婚式したらええんとちゃう? 全部、こっちが準備するし」なんて持ちかけてきて。
 諒くんも、「せっかくそう言ってもらってるなら」って、それに乗っかってしまった。
 
 私、「阿部さんが『番組で』って言ったら、『しぐパラ』だよ? 何が起こるか分からないよ?」って、何度も言ったんだけど。
 
「それはそれで、楽しいんじゃない? きっと、芸人・道坂靖子にとっても、おいしい展開になると思うよ?」
 
 なんて、パソコンの画面に向かったまま言うもんだから、私も結局断り切れなくて。
 
 
 
 
 1月の中旬。
 朝から冷え込んでて、今は気持ち良く晴れているけれど、天気予報で夜から雪が降るって言ってた。
 
 今日がその『結婚式』。
 
 あまりに準備期間が短いので、私はてっきり、テレビ局のスタジオでコントみたいな結婚式でもするのかと思ったんだけれど。
 郊外にあるやや小さめの教会を、ちゃんと押さえてあって。
 
 さっき阿部さんが、「なかなかええとこでしょ? たまたま、ええタイミングでキャンセルが出たんやて。本来なら、2年待ちらしいよ」と教えてくれた。
 
 
 
 
「2年待ちだって。すごいね」
 
 諒くんが着替えを済ませて、私の控え室にきて言った。
 私の方は、ついさっきまで番組スタッフと打ち合わせしてて、まだ普段着のままだ。
 
 ……あれ? 諒くんが着てる衣装、番組が用意してくれたタキシードじゃないんだけど。
 
「諒くん、その衣装……」
「あ、これ? なかなかいいでしょう?」
 
 諒くんは、鏡の前でポーズをとった。
 
「知り合いのデザイナーが作ってくれたんだ。ウェディングドレスは種類も豊富なのに、タキシードってあまりないでしょ? その人、以前からいくつかタキシードのデザインをためてたらしくて、機会があったら、ぜひ、着てほしいって言ってもらってたの」
 
 そう言った諒くんが着ているのは、タキシードとスーツの中間くらいの、ちょっと着崩した感じのものだ。
 
「いつのまに、そんな準備を」
「阿部さんからこの話をもらったとき、すぐにお願いしたんだ。だから、そうだな、一週間くらいで作ってもらっちゃった」
 
『作ってもらっちゃった』って……。
 
 諒くんは、基本的に私と一緒で『面倒くさがり』なんだけど。
 ごくたまに、一度スイッチが入っちゃうと、私と違って、今みたいにやたらハイテンションになっちゃう。
 初めて遊園地に来てわくわくしちゃってるコドモみたい。
 
「そういうわけで、みっちゃんは、これね」
 
 諒くんは、ドアの外に置いてあったらしい荷物を、私の目の前に置いた。
 
「何、これ?」
「ウェディングドレス」
「さっき、番組のスタッフが持ってきてくれたわよ?」
「これにして。僕のと対になってるから」
 
 諒くんは、荷物の中身を取り出して、ウェディングドレスを見せてくれた。
 ほんとだ。
 諒くんが着ている衣装と雰囲気が同じ。
 
「じゃ、僕は散歩してくるから、後でね」
 
 そう言って、諒くんは軽い足取りで部屋から出ていってしまった。
 その場にいた、私の着替えを手伝ってくれるスタッフが、やや呆れた表情ながらも、諒くんが持ってきたドレスを手に、笑って言った。
 
「じゃぁ、そろそろ、こちらのドレスに着替えましょうか」
 
 
 
 ****
 
 
 式は、ごく普通に、滞りなく進んでいった。
 もちろんテレビカメラは数台あるんだけど、今のところ、『しぐパラ』が関わっているということを忘れてしまうくらい。
 外から見ると、少し小さめかな、と思ったこの教会は、中は意外と広くて、結構たくさんの人が参列してくれている。
 
 そういえば、僕の両親は、この式には参列していない。
 母は、『息子の結婚には興味がない』と言っていたけれど。
 自分が出てくれば、僕の中学時代の『過去』が明るみにでるんじゃないかと気を遣ってくれたんだと思う。
 
 それから、参列者の中には盟くんと奈々子がいて、さっきからなにやら話しているようなんだけど、会話は聞こえない。
 ……なんだか、盟くんがうなだれてるように見えるんだけど、いったい何を話しているんだろう。
 
 そんなことを考えてるうちに、誓いの言葉も、指輪の交換も終わって。
 
「ソレデハ、誓イノ キスヲ――――」
 
 牧師の言葉に、僕は彼女と向かい合った。
 
 彼女が着ている、このウェディングドレス。
 実は、僕が彼女にプロポーズするときに渡した指輪を作ってくれたデザイナーの人が、『これも、必要でしょう?』と言って、準備しておいてくれたものだ。
 
 僕は基本的に不精者だから、式も挙げずに入籍だけで済ませてしまおうと思っていたのだけれど、阿部さんがこの式の提案を持ちかけてきたほんの少し前に、そのデザイナーさんから、『出来上がったよ』ってメールもらって。
 
 みんながいろいろと協力してくれてるのを断る理由もないし、と思って乗っかっちゃうことにしたんだ。
 
 彼女は、番組が関わることに対して相当嫌がっていたんだけれど。
 本当は、きっとこういうの着たかったんじゃないかな、とも思って。
 
 
 
 僕は、彼女の顔にかかっているベールをゆっくりと持ち上げた。
 彼女は、緊張の中にも、少し不安げな表情が見える。
 
 多分、『この結婚式までドッキリなんじゃないだろうか』なんて、頭のどこかで考えてるんだろうな。
 きっと、役所に婚姻届を受理されるまでは、その不安を完全に拭い去ることなんてできないんだろう。
 
 僕のことを信じてないってわけではなくて、単にそれだけ今までそういう仕事をしてきたってだけのこと。
 ここまでくると、本当に職業病だね。
 
 僕は、その不安げな彼女の顔に、ゆっくりと自分の顔を近づけた。
 
「ちょぉぉぉっと待ったあああああぁぁぁぁあ!!」
 
 突然、教会の扉が開いたかと思うと、一人の男性が乱入してきた。
 へんてこなメイクを施した、花本さんだ。
 バズーカらしきものまで抱えてる。
 
 まぁ、『予想通り』って感じなんだけれど。
 
「道坂ぁぁ!! 結婚なんてさせへんでぇぇ!! ぶち壊してやる!! おまえらなんて、%$&☆△……!!!」
 
 興奮しすぎて、何を言ってるのかわからない。
 この人は、どれだけ笑いに貪欲なんだろうか。
 
 参列者は、みな突然現れた不審な乱入者に注目している。
 
 彼女は、困惑の表情を浮かべている。
『番組の演出』なのか、『全てがドッキリ』なのか、判断しかねているといった感じ。
 
 僕は、彼女の腕をちょいちょいとつついた。
 振り向いた彼女の肩を掴んで、ちらりと牧師の方を見る。
 牧師は、何かを促すように、ニコリと微笑んだ。
 僕はそれを確認し、彼女の唇に軽く口付けた。
 
「えっ……なに……?」
 
 いまいち状況を飲み込めてない彼女に僕は言った。
 
「誓いのキス」
 
 そういえば、『誓いのキス』って、『誓いの言葉』がただの口約束にならないように、封印するって意味があるんだって、以前何かで知った。
 だからこれで、儀式としては一応成立したことになるんじゃないかな。
 
「行っておいでよ」
「どこに?」
「仕事。せっかく花本さんが流れつくってくれたんだから。こっちの儀式は、終わったし」
 
 そう言って、僕はふたたび牧師を見た。
 彼女も、つられて同じ方を見る。
 
 どう見ても外国の方なんだけど、僕たちの会話を理解したのか、牧師は僕たちを見て、ニコリと笑ってうなずいた。
 
 それを見た彼女はほっとした表情になって、僕の顔を見ると、眉間にしわを寄せた。
 仕事モードに切り替わったみたい。
 
「じゃぁ、行ってくる」
 
 彼女はそう言うと、ドレスの裾をひっつかんで、騒ぎの中心(花本さんが、彼女を呼ぶようにバズーカをぶっ放している)まで駆けていった。
 
 
 

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