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第一章 君の光に恋してる! Epilogue

 翌朝カーテンを開けたら、思ってたとおりの景色が広がっていた。
 どこに何があるのかわからないくらい、一面が真っ白。

「諒くん、気をつけてね。ここ、滑りやすくなってるから転ば……わっ!?」

 マンションのロビーから出ようとしたところで、彼女が足を滑らせた。
 一歩後ろにいた僕は、とっさにその身体の両脇を抱えて支えた。

「『気をつけてね』って言った方が滑ってどうするの?」

 彼女が体勢を整えるのを見守りながら、僕は遠い記憶を思い返していた。

「……何、笑ってるの?」
「ん、昔、こんなことがあったな、と思って」
「こんなこと?」
「うん。あのときは、今みたいに助けてあげられなかったけど」
「……もしかして、氷のプールに落ちたときのこと?」
「じゃなくて、もっと前」

 彼女は、眉間にしわを寄せて考えている。

「何か、あったっけ? ごめん、覚えてない……」
「いや、別にいいんだ。ずいぶん昔の話だしね」

 僕は目を閉じて、不思議がってる彼女の頭に触れようとして……やめた。

「どうしたの?」

 彼女は、自分の頭の上に伸びてきた僕の手に、反射的に首をすくめている。

「ん、いや、なんでもない」

 そう言って、僕は彼女の頭に伸ばしかけていた手を一度引っ込めて、代わりに彼女の手を握った。

「忘れ物とかない? きょうは途中で気づいても戻るの大変だよ」
「うん。……あ、そうだ、私の部屋に寄ってってもいい? 冷蔵庫の中にね、プリンだけ残ってて、それを出したら、もう、プラグ抜いちゃおうかなって思って」
「そのプリン、僕がもらっていいなら、寄っていってもいいけど」

 彼女は、僕の提案に少し不満げな表情を見せた。

「じゃ、とりあえず、行こうか」

 僕は、彼女の手を握ったまま、10センチは積もっている雪の上をゆっくりと歩き出した。

 もしも、彼女から見えるあの光が消えるようなことがあったとしても。
 僕は、心の中でつないでいる彼女の手を離さないって、自信がある。

 ほんとに、地味でドジで鈍感な、マイスイートハニー。
 …………なんてね。

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