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03 イケメン、監視に気づく。

「……すみません。気づかれました」
 
『図書館デート』の『V』を見た一週間後、『諜報部員』が興奮した様子で報告に来た。
 
「気づかれたって、どういうことやねん? 監視してるってことがか?」
 
 花本サンが眉間にしわを寄せて聞いた。
 
「……はい。男性の方に、確実に気づかれました。……でも、少し妙なんです」
「妙?」
 
 水野クンは、花本サンに一本のビデオテープを差し出した。
 花本サンは無言で受け取ると、先週と同じこの部屋のビデオデッキにテープを差し込んだ。
 
 画面に映ったのは、どこにでもありそうな、フツーの食料品スーパー。
 その店から、道坂サンと例の『リョウくん』が出てきた。
『リョウくん』の方が、荷物を持っている。
 
 二人が並んで歩いているのを、カメラが後を追っていく。
 しばらくすると、ガシャンッ!!という音とともに、画面の上の方に猫がぶら下がっている映像が映った。
 
 ……猫がぶら下がってるんちゃう。カメラが上下逆になってるんや。
 
「すみません。このとき、転んでしまって……」
 
 画面には、ふたたび二人が歩いている映像。
 
 少し歩くたびに、『リョウくん』がチラチラと後ろを気にしている。
 おそらくは、先ほど転んだ水野クンが自分たちの後を尾行していることに、気づいたんだろう。
 
 道坂サンが、怪訝な顔で『リョウくん』に話しかけている。
 会話は聞こえないけれど、『さっきから後ろを気にして、なにかあった?』という感じだろう。
 
『リョウくん』は、『なんでもない』というようにかぶりを振ったけれど、立ち止まって何かを考えるようなポーズをとった。
 
 そして、自分が持っていた荷物を道坂サンに持たせて。
『なんで、私に持たせるんだろう?』という表情の道坂サンの肩に手を置いて。
 一瞬、チラッとこちらを見たかと思うと……。
 
 ――――――キキキキキ、キス!?
 
 それも、隠すようなそぶりも見せず、大胆に。
 いや、むしろ、見せ付けるような感じで。
 
 そして、『リョウくん』はクスクス笑いながら、再び道坂サンに持たせていた荷物を持つと、驚いて固まっている道坂サンの手をとって、歩き出した。
 
 
「……なななな、なんやねん、今の?」
 
 花本サンは、煙草を吸うのも忘れてしまうくらい、驚愕してしまったらしい。
 
「絶対気づいてるよなぁ? なのに、なんで? なんで、あんな……えぇ?」
「……確かに、妙やよなぁ」
 
 花本サンが興奮してしまっているから、ボクは逆に冷静に考えないとアカン。
 
「とりあえず、『身内説』は、完全になくなりましたね」
 
 ひとつひとつ、ゆっくりと謎を解き明かしていくようにボクは言った。
 
「水野クンが転んでしもたんは、仕方ないよな。でも、その後の、あの彼の行動は、ちょっとよく理解できひんのやけど……」
「あれ、絶対尾行に気づいてるよな?」
「そうですね。気づいてるでしょうね。それなのに、なぜ彼は道坂サンに……キスをしたか」
 
 ボクは、あらゆる可能性を頭の中にめぐらせてみた。
 
「例えば、別の番組で『ドッキリ』仕掛けられてるんとちゃいます? ほら、うちの番組でもたまにありますやん。『ニセ恋人』ってやつ」
「あの男が、仕掛け人ってことか?」
「そうです。その可能性も、ありますよね」
 
 ボクの推理に、『諜報部員』が口を開いた。
 
「……あり得なくもないですが、もしそうだとしたら、僕の他にも、そちらの番組のスタッフが尾行しているはずです。でも、そんな怪しい人は今まで見かけませんでした」
「そうか。それも、そうやなぁ。後をつけてるスタッフを間違えるってことは、ないやろうしなぁ」
 
 ……もし『ドッキリ』と仮定したとして。
 その仕掛け人はそっちの番組のスタッフの顔は覚えているやろうから、別の怪しい人(今回でいうなら、水野クンや)に尾行されていたとするなら、その前でなんらかの行動を(しかもあんな見せ付けるように)起こすなんてことはまずあり得へん。
 
「ほしたら、水野クンのことをストーカーやと思ったんちゃう?」
「それは……あるでしょうね。僕の行動はまさしくストーカーそのものですから」
 
 と、水野クンはさわやかに苦笑い。
 
「ストーカーやと思って、見せ付けるようにキスしはったんですわ。『オレの女やでぇ!』みたいな」
「……いや、でも、ストーカーに対してそんなことしたら、返って逆上するんとちゃうかって思わへん? そういう事件、最近やたら多いやないか。オレは、怖くてようでけへんわ」
 
 花本サンも、少し落ち着いたのか、推理に加わってきた。
 
「じゃぁ、やっぱり普通にお付き合いしているってことなんでしょうか?」
「そう……なんやろうかね? それにしては、ちょっとこの彼の態度、腑に落ちんっていうか……。何か、ウラがありそうな感じせぇへん?」
「やっぱり、騙されてるんちゃう? 番組のドッキリじゃないにせよ、なんか、こう……何か目当てで」
「貢がせるとか?」
「そうそう。道坂なら、恋愛経験乏しいから、ひっかかるんちゃう?」
「……あり得そうですね」
「いや、でも、それなら道坂サンだけ騙したらええ話でしょ? あのキスの仕方、絶対誰かに見せてるような感じでしたやん」
 
『謎が謎を呼ぶ』って、いまのこういう状況のことなんやな。
 
「……素朴な疑問なんですけど、なんで、彼は道坂さんに荷物を持たせたんでしょうね?」
「それも謎やねん。一見、意味のない行動のようにも見えるけれども、もしかしたら重要なポイントなんかもしれん」
 
 3人は、うぅぅーん……と考え込んでしまった。
 
「結局、身内説が否定できただけで、余計謎が深まったような気ぃするんやけど」
「せやなぁ……」
 
 花本サンは、しばらく腕組みをして考えて、そして半ば諦めたような顔で水野クンに言った。
 
「顔もバレてしもたんならしゃーない。この件は一旦保留。『監視』も、一時中断。水野、ありがとうな」
 
 
 
 
 この件に関しては、未だに謎なんですわ。
 高橋クンが、なぜあんな、見せ付けるようにキスをしたのか。
 
 結婚してしばらくした後、道坂サンが『高橋くんは、たまに意味不明な行動をする』って言うてたんですけど。
 ……でも、そう言う道坂サンは、表情は不満げやけれど、どことなく幸せそうな感じなんですよね、空気が。
 
 これは、完全にボクの憶測なんですけど。
 もしかしたら、この頃の高橋クンは、『そろそろバレてもいい』と思ってたんちゃうかなって。
 むしろ、『もうバラしてしまいたい』というか。
 
 そうでなければ、超アイドルが、『夏休みで賑わう図書館でデート』も『大胆路上キス』も、あり得へんでしょう。
 
 世間が見ている自分と、本当の自分との『ズレ』に苦しんでいたのは、ひょっとしたら高橋クンの方だったのかもわかりませんね。
 
 ……なんで、キスするときに道坂サンに荷物を持たせたかって?
 それ、最大の謎ですわ。
 ボクにはまったく、見当もつきませんよ。
 
 
 

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