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04 イケメンの正体、発覚。

 そうして、道坂サンの『監視』は一時中断され、保留にされたまま夏は終わり、秋が来て、冬も間近に迫った11月末。
 事態は急展開を迎えた。
 
『しぐパラ』の年末特番で、レギュラーメンバーにドッキリを仕掛けたんですわ。
 メンバー一人が待つ控え室に。
 
 男性陣には、お色気たっぷりの女性を。
 女性陣には、ちょっと怪しい男性を。
 
 それぞれ送り込んで、どういう反応示すかっていう、正直ボクはちょっとくだらないな、なんて思ってるんですが。
 
 その企画の、道坂サンの番の時。
 
「道坂サン、さっきからずっと何か聴いてますね」
 
 ボクと花本サンは、ドッキリが行われる控え室の隣の部屋で、隠しカメラで撮ってる映像を見ていた。
 道坂サンは、ミュージックプレイヤーを握り締めて、目を閉じて聴き入ってるって感じだった。
 
「最近、空き時間があるといつもこれ聴いてるんちゃう? 普段はそうでもないけど、たまーにあるよな」
「そうですね。2、3週間聴いてるかな、と思ったら、パタっと聴かなくなったりしますよね」
「まぁ、なんやようわからんけど。ドッキリ始めようや」
 
 今回女性陣に送り込む怪しい男役は、例の『諜報部員』を務めていた水野クンだ。
 
『監視』の仕事が一時中断になった後も、メンバーと関わりの少ない仕事をしていて、顔も知られていないだろう、ということで、今回の仕掛け人として選ばれた。
 
 この水野クンは、一見さわやかな好青年であるけれども、昔、役者を目指していたことがあったらしく、特に『怪しい男』を演じさせたらなかなかのもので。
 
 そういう意味でも、今回の仕掛け人として適役だ。
 
「それでは、いってきます」
 
 隠しカメラからの映像に、水野クンが控え室に入っていくところが映し出された。
 
 ……おい、さっきまでのさわやかさはどこへ消えてもうたん?
 まるで、別人だ。
 ドッキリやって知らずにこの映像みたら、完全に事件ですやん。
 
 道坂サンは、怪しい男が入ってきたのに気づいて、逃げ始めた。
 そりゃ、そうですわ。当然の反応ですって。
 
 ちなみに、他の女性陣は、果敢に戦ったり、明るく接してみたり、何もできずに泣き出したり、という感じだった。
 ドッキリとはいえ、こんな犯罪を助長するようなことしてええんかいな?
 
 道坂サンは、ゆっくりと控え室のドア近づいていった。
 ドアから出たら、そこでドッキリは終わり。
 
 ネタばらしのために、ボクはドッキリを観察していた部屋を出た。
 そこで見たものは――――――。
 
 ドッキリを仕掛けていた部屋の前を通りかかっていたのは。
 超アイドルグループ『Hinata』の高橋諒クンだ。
 
 これから、道坂サンが部屋から出てきたらドッキリのネタばらしだから、そこにいると画面に映ってしまう……と、声をかけようとしたんやけど。
 
 高橋クンが映ってたら、視聴率も稼げるか? なんて一瞬考えてるうちに、控え室のドアが開いて、道坂サンが飛び出してきた。
 
 高橋クンは、突然のことに驚いている。
 
「えっ……みっ……道坂さん?」
「りょっ……諒くん!?」
 
 ……ん? いま、道坂サン、なんて……?
 
 一瞬、何か不思議な感覚を覚えたが、次の瞬間、今度は、控え室からあからさまに怪しい状態を保ったままの水野クンが出てきた。
 
「――――さがって!!」
 
 高橋クンは、道坂サンと水野クンの間に割って入ったかと思うと……えっ!?
 胸倉掴んで……殴る!?
 
 ――――アカン!! やばい!!
 
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 高橋クン、ストップ!! ドッキリやねん!!」
 
 ボクがとっさに叫ぶと、高橋クンは殴りかかっていたこぶしをぴたりと止めた。
 
「あ……、阿部さん?」
 
 高橋クンは、ボクの顔を見て驚いている。
 
「ごめんなぁ。年末特番のドッキリやねん。こいつ、『しぐパラ』の新人スタッフ。水野クンって言うの」
 
 ボクが水野クンを指差すと、高橋クンは、さわやかな笑顔で挨拶をする水野クンの顔を怪訝な顔で見ている。
 
「……どうかしはった?」
「あ、……いえ、別に……」
 
 この時点で、ボクは『何か』に気づき始めていた。
 
 …………もしかして。
 いや、でも……まさか、ね。
 
「ところで、道坂サン、そのミュージックプレイヤー、そんなに大事なん?」
 
 その、『何か』を振り払うかのように、呆然としている道坂サンに話を振った。
 
「あ、これは……」
「どんな曲入ってんの?」
 
 ボクの問いに道坂サンが答えるよりも先に、高橋クンが道坂サンの手からミュージックプレイヤーを抜き取って、勝手に操作して聞き始めた。
 
「……道坂さん、これ……中国語講座?」
 
 高橋クンは、なにやら含み笑いをしながら、道坂サンに視線を向けて聞いた。
 
 その瞬間の、高橋クンの顔。
 どこかで見たことがあるような……。
 
 そうそう、確か。
 道坂サンが図書館で会うてた『リョウくん』の顔にそっくり……。
 
 ……え、『リョウくん』?
 
 そういえば、さっき道坂サンが控え室から飛び出してきたとき。
 高橋クンを見て、なんて言うてた?
 
 確か、『諒くん』って。
 
 
 ……………………。
 !!!?!?!?!?!
 
 えええええええええ!?!?!?
 ちょ、ちょちょちょちょっと待って!?
 
『リョウくん』 = 『諒くん』 = 『高橋諒クン』!?
 
 ボクは、頭の中で花火がはじけまくってるのを覚られないように、二人に視線を向けた。
 高橋クンがニヤニヤしながら、不満げな表情の道坂サンにミュージックプレイヤーを返している。
 そして、高橋クンは、顎に手を当てて何かを考えるようなしぐさをした。
 
 ……間違いない。
 ボクは、確信した。
 
『リョウくん』 = 『高橋諒クン』だ。
 
「道坂さん、きょうは仕事終わりなんすか?」
 
 高橋クンが、道坂サンに聞いた。
 
「え? ……あ、ドッキリだったってことは、終わり……なのかしら?」
「そう、終わりっすよ。お疲れさんでした」
 
 ボクは、二人の会話に割って入った。
 
「高橋クンも、きょうは終わりなん?」
「ええ、さっき歌収録終わったんで、これから帰るところだったんです」
「ほしたら、ちょうどええから、一緒にメシでも食いに行かへん? ボクらがおごるし。……ねぇ、花本サン?」
 
 ボクは、ちょうど隠しカメラの映像を『観察』していた部屋から出てきた花本サンに声をかけた。
 
「…………んぁ?」
 
 まったく状況が飲み込めていない花本サンをひっつかまえて、ボクの『確信』したことを説明した。
 もちろん、あの二人には覚られないように。
 
「…………まさか、そんなことあるわけないやろ」
「いや、でも絶対ですって。間違いない」
「相手は超アイドル『Hinata』やで? それが道坂みたいな『モテない芸人』なんて、相手にするわけないやろ?」
「『どういう関係か』までは、まだ断定できてないです。……でも、あの『リョウくん』が高橋クンであることは、間違いないですって」
 
 そう言って、ボクと花本サンは同時にあの二人を見た。
 
「……確認してみませんか?」
「確認?」
「そうです。さっき、メシ行かへんかって誘ってみたんです。だから、こう……」
「…………そういうことか」
 
 花本サンは、ボクの提案の『1』を聞いて『20』くらい理解したようだ。
 
「オレ、ええとこ知ってんねん。みんなで行こうや」
 
 花本サンに言われて、道坂サンと高橋クンは、二人で顔を見合わせた。
 
「……僕もいいんですか?」
「もちろんや、人数多い方が楽しいやんなぁ?」
 
 こうして、4人(……と、密かにスタッフ数人)で、芸能人御用達の居酒屋に行くことになった。
 
 
 
 

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