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06 隠しカメラで見てみる。

 しばらく、二人は黙ったままだった。
 高橋クンの方はフツーにしているけれど、道坂サンの方は少し落ち着かない感じ。
 
 やがて、その道坂サンが口を開いた。
 
『……きょう、誕生日だったんだね』
『ん? うん』
『ごめんね、私、ずっと知らなかった』
『僕なんて、みっちゃんの誕生日どころか、歳も知らなかったし』
『さっき、そうとう驚いてたよね。ほんとに知らなかったの?』
『うーん。知らなかったというか、気にしてなかったというか……』
『どう思った?』
『ん?』
『37って知って……。だって、9つも違う……』
『確かに驚いた。『そんなに違うんだ』って。数字で見ちゃうとね。だけど……』
『だけど?』
『……だけど、それだけ。歳を知ったからって、みっちゃんが別人になるわけじゃないし。別に、今までと何も変わらないと思う』
『……何も変わらない?』
『そう。そもそも、歳を知らなくても、3年間付き合ってきたんだから。年齢なんて、重要な要素じゃないよ』
『……え、いま、なんて?』
『『年齢なんて、重要な要素じゃない』』
『その前』
『その前?…………『3年間付き合ってきたんだから』?』
 
 高橋クンは、少しおいて、続けた。
 
『世間の人はどうかわからないけど、自分の彼女との歳の差がいくつあったって、僕は気にならないよ』
『え? 『彼女』?』
『……どうしたの? さっきから。』
『あ、だって、『彼女』って……』
『みっちゃんは、僕の『彼女』でしょ?』
 
 ……答えが出た。
 
 この二人は、付き合うてるんや。
 しかも、3年間も。
 
 3年間も付き合うてて、年齢や誕生日も知らんなんて。
 なんやちょっと、変わってるけど。
 高橋クンが嘘をついているようには見えない。
 
 ただ、ちょっと気になるのは、道坂サンの反応。
『え?『彼女』?』って、聞き返した。
 
 そして、高橋クンが『みっちゃんは、僕の『彼女』でしょ?』って答えた後。
 なんかちょっと安心した、って感じに見えたのは、気のせいやろうか?
 
 心のどこかで、高橋クンのこと疑ってたんやろか?
 ……ってことは、それまで『彼女』として自信が持てへんような扱いを受けてたってこと?
 それって、どんな?
 
 それはともかく、現時点では。
 
「……この様子だと、仲良うやってるってことちゃいますか、花本サン?」
「そういうこと、みたいやな」
「うまくいってたら、祝福してあげるんでしょう?」
「…………まぁ、しゃーないな」
 
 微笑ましく画面に映った二人を見ていると、道坂サンがボクらの名前を口にした。
 
『あ、ほら、花本さんも阿部さんも、遅いなって思って……』
 
 そろそろ戻らないと、怪しまれてるみたいや。
 ボクと花本サンは、二人で立ち上がろうとした、そのとき。
 
『………………なんだ、キスしてほしいのかと思った』
 
 !?!?!?!?!
 驚いて、個室の戸のほうに向けていた視線を、再び画面に戻す。
 
『だって、僕のことずっと見てるし……』
『それは……だって、会うの久しぶりだし……』
『寂しかったんでしょ?』
 
 そう言って、高橋クンは道坂サンのかばんから、さっきのミュージックプレイヤーを取り出した。
 
『あっ!! ちょっ……勝手に…………!!』
 
 高橋クンは、慣れた手つきで操作すると、イヤホンを道坂サンの耳に近づけた。
 道坂サンの顔が、どんどん真っ赤になっていく。
 
 ……それって、『中国語講座』なんちゃうの?
 
 画面の中の高橋クンは、ゆっくりと道坂サンに近づいていく。
 
「ちょ、これは……どうします?」
「あかん!! ぶち壊してやる!!」
 
 花本サンは、勢い良く戸を開けて、個室の外に出た。
 すると、
 
「――――――きゃぁっ!?」
 
 ―――――ドンッ!!!!!
 花本サンが飛び出した拍子に、誰かとぶつかったらしい。
 
 ふわっとした髪が印象的な若い女性の姿が、花本サンの肩越しに見えた。
 
「……あれぇ、なーこちゃん?」
 
 その女性は、ボクらコンストラクションの、『しぐパラ』とは別の番組がきっかけで結成された、女性アイドルユニット『Andante』の一人、なーこちゃんだった。
 
「……阿部サン、花本サン?」
 
 なーこちゃんは前髪を軽くかきあげて、驚きの表情でボクらを見つめた。
 
「こんなとこでお会いするなんて、偶然っすねぇ」
「そやね。相変わらず、元気にしてる?」
「はぁい、おかげさまで」
 
 なーこちゃんは、口調は少々よくないというか、若者らしいけれど、なかなか礼儀正しいコだ。
 
「あれ? そちらの男性は?」
 
 ボクは、なーこちゃんの後ろに男性がいることに気づいた。
 
「あ、いま、雑誌の取材受けてて、昨日合コンで会ったんっすけど」
「……は? 合コン? ……で、取材?」
 
 意味が良く分からへん。
 けど、なーこちゃんの話が良く分からへんのは、いつものことや。
 
 ボクが男性に視線を向けると、彼は軽く会釈をした。
 
「あ、花本サン、前におごってくれるって言ってたじゃないっすか。きょう、これからごちそうしてくださいよ」
「別に、構わへんけど、オレはとりあえず今急いでんねん!!」
 
 花本サンは、道坂サンと高橋クンのいる部屋の戸を勢い良く開けて入っていった。
 
「なーこちゃん、ごめんな。いま、ちょっと連れがおんねん。多分、花本サンが聞いてくれると思うわ、なーこちゃんが一緒してもいいかって」
「え? あ、そうなんっすか? それなら、また今度でもよかったのに」
「ボクらは、全然構へんよ。一応、用事は済んだとこやし。あの二人も多分大丈夫やと思うで?」
「……誰なんすか、一緒にいるの」
「道坂靖子サンとね、『Hinata』の高橋諒クンなんやけど。会うたこと、ある?」
 
 二人の名前を出した瞬間、なーこちゃんの表情が強張ったように見えた。
 
「あ、あたし、ホントに、また今度に……」
「――阿部ぇ!! 構へんって! 連れてきてぇ!」
 
 個室の中から花本サンの声が響く。
 
「ほら、大丈夫やって。そちらの方も、よかったらどうぞ?」
 
 ボクは、『雑誌合コン』の彼にも声をかけた。
 
「あ、じゃぁ、お言葉に甘えて……」
 
『雑誌合コン』の彼は、笑顔でボクに言った後。
 少しうつむいて、ニヤリと笑った。
 
 …………イヤ~な笑い方やな。
 
「かかか、帰ります、あたし!!」
 
 なーこちゃんは荷物を抱えて、店の出口へ向かおうとする。
 
「なんで? 道坂サンか、高橋クンか、どっちか苦手やった?」
「そそそそういうわけじゃ……」
 
 なんや、さっきからなーこちゃん様子がおかしいな。
 
「大丈夫やて。ここで帰ったら、逆に二人にもボクらにも、失礼やで?」
「…………そ、そうっすね。すんません」
 
 なーこちゃんは、何か祈るような感じで個室に入っていった。
 
 

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