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08 尾行もしてみる。

「……どうしましょうね?」
 
 なーこちゃんも店を出て。
 居酒屋の個室に仕掛けた隠しカメラをスタッフに撤収させた後。
 ボクと花本サンは店の前まで出て、考えていた。
 
「とりあえず、なーこちゃんが二股かけてるんちゃうか、ってのは、シロですわ。さっきの『雑誌合コン』の彼は、なーこちゃんの彼氏とちゃいます」
「……そやな。複雑そうだったのが、少しすっきりしたな」
「いやでも……それがまた新たな謎になるんですよ? なーこちゃんの彼氏じゃなかったとするなら、高橋クンが『雑誌合コン』の彼を睨みつけてた理由がわからんようになってまうやないですか」
 
 花本サンは、胸の前で腕組みをして、眉間にしわを寄せた。
 
「……確実なことは、なんやろな?」
「そうですね。まず、高橋クンと道坂サンが付き合うてるってことですか」
「なーこは?」
「なーこちゃんと高橋クンが、なにか関係があるやろうな、ってのはわかりますけど、それがなんなのかは断定はできませんよ」
 
 しばらく黙って、缶コーヒーをすすっていた花本サンが、口を開いた。
 
「……つけてみる?」
「は?」
「道坂と、高橋」
「尾行っすか?」
「気になるやん。道坂は、高橋の様子がおかしいことに気づいてたようやったから、絶対何かある」
「……ってことは、これから?」
「そうや。いまからなら、間に合うんちゃう? 道坂の家までは、わかるやろ?」
「そりゃ、わかりますけど……、二人してどっか別の場所行ってたらもうわかりませんやん」
「それならそれで、仲良うしてるんやったらええやないか」
 
 一度決めたら、なかなか曲げませんよね、花本サンって。
 
「……わかりました。行ってみましょう」
 
 
 
 そうして、ボクと花本サンは、道坂サンの家へ向かうためにタクシーに乗った。
 
「なんか、久しぶりですね」
「……何が?」
「仕事以外で、こうして一緒に行動するの」
「……そやな」
「なんか昔に戻ったみたいやないですか?」
「昔……か」
「あの頃には……時間は戻せませんけどね」
 
 ボクはタクシーの窓から遠くの空を眺めた。
 
 
 
 
 道坂サンのアパートの近くでタクシーを降りた。
 部屋には……まだ明かりはついていない。
 
「先回りになっちゃいましたかね」
 
 辺りを見まわすと……あ、来た!
 遠くから二人が歩いてくるのを確認し、ボクらは物陰に隠れた。
 
 高橋クンが、なにやら話し始めた。
 この位置からでは会話は聞こえないけれど、高橋クンはさっき居酒屋を出たときとはまるで別人のように穏やかな表情をしている。
 
 しばらく二人でフツーに話をしていたようなんだけれども、突然、道坂サンの様子が変わった。
 
「ふざけないでよ!! ……それが私の仕事なのよ。そんなこと、最初からわかってるじゃない!!」
 
 仕事のキャラで不機嫌になったり、毒舌吐いたりすることはあっても、普段はめったに怒ることのない道坂サンが、声を荒げている。
 
 ……本気で怒っている?
 
「あ……ちがっ……、最後まで僕の話を……」
「そんなに汚れたオバサン芸人が嫌なら、さっさと若くてキレイなコと付き合えばいいでしょ!!」
「そういう……ことじゃなくて!!」
 
 高橋クンは、興奮した道坂サンを落ち着かせるかのように、道坂サンの両腕を掴んだ。
 そして……そのまま黙ってしまった。
 
 しばらくして、道坂サンからすっと離れた高橋クンは、ずっとうつむいたまま道坂サンに背を向けて、歩いて行ってしまった。
 
 残された道坂サンは、遠ざかっていく高橋クンの背中を見ていたけれど、やがて自分の部屋へ入っていった。
 
 
 
 
「ケンカ……しちゃいましたね」
 
 ボクはため息をついた。
 
「もう、何がなんやら、わけわかりませんから、そろそろやめにしません?」
「そやなぁ……。なんか、面倒になってきたわ」
「一旦、白紙にして、様子見ましょうよ。時間がなにか解決してくれるかもわかりませんし」
「時間……か」
 
 花本サンも、ため息をついた。
 
「これから年末に向けて忙しくなりますし、こんなことしてるヒマもないですやん。……花本サンかて、いろいろあるでしょう?」
「……………………」
「もう、11月末ですよ。あと、一ヶ月半です。……なにも恐れるようなことは起きませんって」
「…………阿部」
「はい?」
「………なんか、すまんな」
「なんで、謝るんです?」
 
 ボクは、笑顔をつくった。
 
「ボクは、花本サンのこと、好きですよ」
 
 花本サンは、眉間にしわを寄せた。
 
「気持ち悪いわっ」
 
 
 
 

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