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10 えげつない任務。

「明日、確か大阪で仕事だったよな?」
 
 ラジオの生放送が終わると、花本サンはようやく口を開いた。
 
「あ、そうですね。なんか、移動すんのもしんどいですね」
「阿部。オレはな、考えた。あいつに、復讐してやる」
 
 花本サンは、真面目な顔つきで言った。
 
「……はぁ? あいつって、誰ですの?」
「高橋に決まっとるやないか」
「高橋クンですか? 復讐って……いや、ボクらがすることとちゃいますやん」
「あの道坂は、そんなことしたいと思っててもできんやろ。だから、代わりにやったるねん」
「代わりに……って、何か具体的な策でもあるんですか?」
 
 黙ってうなずいた花本サンは、隣のブースにいたマネージャーを呼んだ。
 
「明日な、大阪やろ。いま、大阪で人気出てる『プラタナス』ってあるやろ。同じ事務所の。あれの、福山ふくやまの方、呼んどいて」
「福山だけ、ですか? 徳川は……?」
 
 マネージャーは、きょとんとして聞いた。
 
「そうや。福山だけでええ。オレがちょっと話あるって言うといて」
 
 花本サン……なに企んでるんやろ。
 
 
 
 翌日の大阪。
 
「……なんっすか、話って」
 
 いま関西で大人気のお笑いコンビ『プラタナス』の一人、福山クンが、少々おどおどしながらボクらの前に立っていた。
 
「おまえな、再来週のこの日、空けとけ」
 
 花本サンは、カレンダーを指差した。
 
「なんか、あるんすか?」
「仕事や。正月特番のロケに行ってこい」
「……は? 正月特番?」
「全国ネットや。チャンスやで?」
 
 福山クンは、状況が飲み込めないようだ。
 ……っていうか、ボクも飲み込めてないんですが。
 
「それでな、その特番に出る、ある女性を、オトしてこい」
「……オトす?」
「そう。口説いてこいってことや」
「……口説く? ……あ、ドッキリってことですか?」
「いや、番組の企画やないから、本気のつもりでいってこい。週刊誌にすっぱ抜かれるくらいの勢いでいけ」
「本気で……って、言われましても。相手は誰なんすか?」
 
 花本サンは、一呼吸置いて答えた。
 
「道坂や」
 
 ………………は?
 
「……え? 道坂って、道坂靖子さん……ですか?」
「そうや」
「ちょっとちょっと、どういうつもりなんですか? 花本サン?」
 
 黙って聞いてたボクは、たまらず口を挟んだ。
 
「そんなこと……なんの意味がありますの?」
「あいつに、教えてやったらええんや。道坂かて、ホンマにモテへんわけやないって」
「いや……こんな『仕掛け』でモテても、意味ないですやん。しかも福山じゃ、ちょっと弱いし」
「な、弱いって、なんすか、阿部さん」
「徳川やと、イケメンやから道坂の方も警戒する。福山くらいがちょうどええねん。オレ、覚えてるで。おまえ、前に『女性の愚痴を聞くのが得意』って言うてたよな?」
「あ……えぇ、まぁ」
「それを最大限利用して、道坂の心の中に入り込めばええ」
 
 そんなんで、『復讐』になるんかいな?
 ほんと、花本サンの考えることって、よくわからないんですけど。
 
「……でも、福山クンかて、受けるかどうか決める権利はありますよ? 彼女とか、いてへんの?」
「彼女は……いませんけど」
「じゃぁ、問題ないやないか。福山が道坂をオトして、付き合うて、週刊誌にでも書いてもらえばええ」
「仮に、そこまで上手くいったとして、その後はどうするんですか?」
「あとは、テキトーにしたらええやろ。うやむやにして別れれば……」
「それじゃぁ、やってること変わりませんやんっ。結果的に道坂サンを二度も傷つけることになるんですよっ?」
「ちょっと、待ってください!!」
 
 ボクと花本サンの言い争いを、福山クンが制止した。
 
「よく状況は見えませんけど、ボクが道坂さんを口説いて、付き合えばいいんですね?」
「福山クン!?」
 
 驚いて、福山クンを見た。
 何かを決意したような表情。
 
「受ける気か? アカンよ、こんなこと……誰も……みんなが傷つくだけや!!」
「ボクに、あの道坂さんを口説き落とせるかどうか、わかりませんけど。やってみます。ただ……」
 
 福山クンは、少し考えて、
 
「週刊誌に書いてもらって誰かに見せるのが目的なら、わざわざ本当に口説いて付き合わなくても、ええんやないですか?」
「……どういうことや?」
「ボクと道坂さんが仲良さそうにしてるところを、写真にでも撮ってもらって、適当に記事書いてもらったらええと思います。ついでに、正月特番の番宣も兼ねてしまってもええかも」
 
 福山クンは、事情もよう分かってないのに、冷静やな。
 
「そしたら、道坂さんかて、必要以上に傷つくこともないでしょう?」
 
 そう言って福山クンは、ニッと笑った。
 
 
 
 
 
 
「……これは、ものすごいことが起こりそうですね」
 
 正月特番ロケでの任務を遂行した福山クンが、やや興奮気味に言った。
 この場に、花本サンはいない。
 
「ものすごいことって、なんやねん?」
「道坂さんのことですよ。ようやく、事情が飲み込めました」
「事情?」
「はい。もう、すっかり。みなさんが、いろんなこと誤解してることも……全部」
「……え、誤解?」
 
 福山クンは、『すべてを知っている』といった顔をしている。
 
「週刊誌のことですけどね、あれ、タイトルと写真だけ、インパクトがあれば十分ですよ。ボクと道坂さんが付き合うてるなんて、でたらめな記事を書く必要ないです。あの人なら、それだけでヤキモチ妬いちゃうんとちがうかな」
「あの人って、誰?」
「道坂さんの彼氏っすよ」
「え? 知ってんの?」
 
 驚いたボクに、福山クンは笑った。
 
「この人ですよね?」
 
 そう言ってカバンから取り出したのは、一枚の新聞紙。
 高橋クンとなーこちゃんの記事だ。
 
「道坂サンに聞いたん?」
「いえ、具体的な名前までは……。でも、間違いないでしょう?」
 
 福山クンは、新聞の記事に視線を落とした。
 
「問題は、こっちなんですけど……」
 
 と、なーこちゃんを指差して、
 
「まぁ……諒さんなら、なんとかするんちゃうかな」
「……『諒さん』? 福山クン、高橋クンのこと知ってるの?」
「中学の先輩なんっすよ、諒さん……高橋さんは」
「え? そうなん?」
 
 意外なところで繋がりがあるんやな。
 
「昨日、テレビ番組ガイド本で見たんっすけど、コンストさんの司会でクリスマスイブの生放送、ありますよね」
「あぁ、あるね」
「それに、高橋さんと道坂さん、出るらしいじゃないですか」
「そやねん。偶然なんやけど」
「ボクと道坂さんの記事、それまでに間に合いますかね?」
「あぁ、イブの前日発売の号になるって聞いたけど」
「じゃぁ、ひとつ、阿部さんにお願いがあるんですけど」
「……なに?」
「その生放送で、その記事のこと、高橋さんに話を振ってみてください」
「えぇ? どういうこと?」
「詳しくは言えませんが、きっと、ものすごいことが起きるはずです。諒さんが……、高橋さんが本気なら、ですけど」
 
『本気なら』って、どういうこと?
 
「もし、なぁーんにも起きなかったら、ボク、責任もって道坂さんとお付き合いしますよ。そういう約束になってますんで」
 
 福山クンは、先日任務を受けたときと同じように、ニッと笑った。
 
 
 
 
 

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