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11 アカン、これ放送事故やて。

 そして迎えた、クリスマスイブの生放送。
 福山クンは、ああ言っていたけれど、いったいなんのことやらさっぱりわからへんし。
 
 実は、3日前から胃が痛い。
 
 福山クンの言うとおり、週刊誌はタイトルにはちょっと誇張表現があるものの、記事はできるだけ嘘も誇張も盛り込まずに書いてもらった。
 
 ……ほんとに、こんなんでヤキモチなんか妬くんかな?
 
 
 
 
「阿部さん、はよーざいまっす」
 
 番組が始まる前に、廊下で『Hinata』リーダーの樋口クンに会った。
 この、『はよーざいまっす』って、『おはようございます』ってことで、このギョーカイでは昼でも夜でも、挨拶は『おはようございます』が基本。
 
「すんません、中川も高橋も一緒に、挨拶に伺おうと思ってたんっすけど……」
「あぁ、別にええよ。花本サン、こっちの現場には来てへんし。ボクもいまちょっとバタついてるから……」
 
 ボクが言うと、樋口クンは少しほっとした表情になった。
 
「そんなことより……、樋口クンも大変やね?」
「えっ、何がっすか?」
「ほら、おんなじグループの人が、なにかしらスクープされたりすると、リーダーとしていろいろあるんやないの?」
 
 ボクの言葉に、樋口クンはほんの少しだけ表情を変えた。
 
「あ……あぁ、えー……ハハハッ」
 
 樋口クンは、視線をそらして苦笑い。
 ……いや、何か少し違うな。
 
「あの……いろいろとご迷惑おかけして、申し訳ないっす」
「いや、ボクは全然構へんけど。……あ、そうそう」
 
 ボクは、手に持っていた一冊の雑誌を樋口クンに差し出した。
 
「これ、よかったらあげるわ。今日の番組の流れで出る話が載ってるからって、さっきスタッフにもろたんやけど、ボク昨日コンビニで買うて、もう持ってんねん」
「はぁ……。で、どれがその話なんっすか?」
 
 受け取った週刊誌の表紙を見つめた樋口クンの表情に変化はない。
 
「まぁ、それはお楽しみってことや。じゃ、あとの二人によろしく伝えといてぇ」
 
 不思議顔の樋口クンを残して、ボクはその場を去った。
 
 これで……よし。
 たぶん、高橋クンもあの週刊誌を見ることになるやろ。
 
 スタッフに言って、流れはあらかじめ作っておいたし。
 何が起こるのか、わからんけども。
 ここは、福山クンを信じて、いっちょやってみるしかない。
 
 
 
 
 
「そういえば、この中に、この間、関西の芸人と週刊誌に撮られてた人、いますね」
 
 番組が始まって数十分。
 スタッフとの打ち合わせどおり、ボクは流れに乗った。
 モニターには、道坂サンの顔が映し出される。
 
「えっ……私?」
「どうなんですか? あの記事」
「あれは……」
「もう、生放送でぶっちゃけちゃいましょうよ。みんな、気になりますって。……ねぇ、高橋クン?」
 
 少々不自然かとも思ったけれど、思いきって高橋クンに話を振った。
 
 ……何が起きんねん。
 
 高橋クンはボクに話を振られて、表情を強張らせた。
 そして、顎に手を当てて、道坂サンを睨んでいる。
 
 何かを考えるようにして黙り込んでいた高橋クンは、しばらくして、ようやく口を開いた。
 
「……仕事が忙しいって言ってたのに、男と温泉行く時間はあるんだな」
 
 ……え?
 マジで、あのタイトルと写真だけ見て……ヤキモチ!?
 っていうか、生放送やで?
 
 あぁ……胃だけじゃなく、頭まで痛なってきた。
 
 
 
 
 そこから高橋クンと道坂サンのケンカが始まりまして。
 詳しいことは割愛しますけども。
 
 まずは、高橋クンが道坂サンに、あの週刊誌の記事のことで怒ってて。
 次に、道坂サンが、そんなことは高橋クンには(なーこちゃんがいるから)関係ないと反論して。
 
 今度は、道坂サンがなーこちゃんの名前を出さなかったために、高橋クンが別の昔の記事と勘違いして、そんな昔のこと持ち出すなと言い始めて。
 
 道坂サンが、昔の話じゃないと言ったけれど、高橋クンがシラを切ったからぶち切れて、他の女のところに行ってしまえばいいなんて言って。
 
 それに腹を立てた高橋クンが、道坂サンをひっぱたいて。
 最後は、道坂サンが高橋クンに豪快な蹴りを入れて、スタジオから去っていった……と。
 
 ……なんてこと。
 確かに、『ものすごいこと』が起きたけど。
 
 どう収拾つけたらええねん?
 
 
 
 
 
 女性陣のボス的存在である大御所タレントが、静まり返ったスタジオで口を開いた。
 
「まさか、あんたら……付き合ってたん?」
 
 はっと我に返った高橋クンが答えた。
 
「あ……えっと…………はい」
 
 ……そりゃ、こんな状況では否定のしようもないわな。
 スタジオ中が、混乱でざわついている。
 
 面倒なことは、いっつもボクの役目ですやん。
 
「はいはーい、じゃぁ、ちょっと一旦整理しましょ」
 
 ボクは平静を装って、この場を仕切り始めた。
 
「まず、高橋クンと、道坂サンが付き合うてるんは、間違いないですね?」
「……はい」
「期間はどのくらい?」
「……3年」
 
 えらい、素直やな。
 
 ボクの質問に高橋クンが答えるごとに、女性陣が身を乗り出して「えええぇ――!?」と叫ぶ。
 
「高橋クンが怒ってるのは、ボクがさっき話題を振った、これのことでしょ?」
 
 ボクは、高橋クンに週刊誌の記事について説明した。
 ただし、これがボクらの仕掛けたものやということは伏せて。
 
 高橋クンは、自分が誤解していたことに、ようやく気づいたようだった。
 
「だからね、道坂サンは、無実。潔白ですわ。なんにも悪いことなんかしてへんよ。でも、高橋クンは、どうなん?」
 
 今度は、高橋クンとなーこちゃんの記事の載った新聞を取り出した。
 福山クンは、『問題はこっち』といってなーこちゃんを指していたけれど。
 そして、『諒さんなら、なんとかする』って言ってたけれど。
 どういうことなんやろうか。
 
 高橋クンは、新聞を広げて記事を見ると、相当驚いた表情になった。
 
「は? 僕……と、奈々子が……はぁぁっ? 熱愛!?」
 
 なんや、あれだけでかでかと報道されとったのに、本人は知らへんかったんか?
 
「道坂サンが言ってた、高橋クンの熱愛報道って、これのことやと思うよ。前に、居酒屋で飲んでたときも、このコ来てから高橋クンの態度おかしかったし、ボクも『この二人、なにかあるな』って思ってましたしね」
「ちっ……違います! 僕と奈々子は――――」
「ちょっと待って!」
 
 高橋クンが、『熱愛』を否定しかけた、そのとき。
 それをさえぎったのは、高橋クンと同じ『Hinata』の中川クンだった。
 
「あいつに言わせたほうがいいんじゃないか? こうなった以上、あいつにだって責任はあるんだし。それに……、おまえには、やらなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
 
 また、ややこしいことになってもうた。
 
『あいつ』って、なーこちゃんのことやな?
 なんで、中川クンが……?
 っていうか、高橋クンが、『やらなきゃいけないこと』って、なんやねん?
 
「盟くん……」
「いまなら、まだ間に合う。あいつには、ボクが言っておくから。ちょうど、この局で収録してるって聞いてるから、連れてくるよ。だから……行ってこい!」
 
 中川クンが、高橋クンの背中をドンッとたたいた。
 そして、高橋クンは道坂サンが出ていった方へ走っていった。
 
 おいおいおいおい、どういうことやねん?
 なんや、一番おいしいところを中川クンに持ってかれたやんけ?
 
 ……ってことは、どーでもええねん。
 
「じゃぁ、ボクはちょっくら行ってきます。あ、そうそう、高橋をこっそりつけてったら、面白いもの見れますよ」
 
 中川クンが、ニッと笑った。
 福山クンといい、中川クンといい……肝心なところは言わへんのな。
 
「直くん、テレビカメラ担いで、高橋追ってみたら? そういうの、好きでしょ?」
「お? おっしゃ、なんかよくわからんけど、いっちょ行くか!?」
 
 同じく『Hinata』の樋口クンが、身を乗り出した。
 
「くれぐれも、気づかれないようにね」
「おっけー」
「あ、オレも行く!!」
 
 今度は『SEIKA』の竹ノ原クンだ。
 そうして、若者たちはそれぞれスタジオを出ていった。
 
 
 
 

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