04 やっと見つけた。

 ……書いちまった。
『入所申込書』に、俺の名前と住所と、生年月日。
 そして、連絡先と……拇印。
 
 希に言われると、なぜか魔法にでもかかったみてーになっちまう。
 
 ――――コンコン。
 誰かがドアをノックする音だ。
 
「失礼しまーす。……あれ、新しい人?」
 
 ドアが開いて覗き込んだのは、俺より少し年下と思われる男だった。
 ガッコーの制服(だよな?)を着ているから、俺と同じ高校生か……もしくは中学生?
 
「あぁ、中川なかがわ……ちょうど良かった。ちょっと入ってくれる?」
 
 希が言うと、中川と呼ばれた男は、言われるままに部屋に入ってきて、俺の隣に並んだ。
 
「さっきね、高橋を呼んだんだ。今日中には来るよ」
「えぇっ……高橋って、あの、大阪の?」
「もちろん」
「……ってことは、この人が、3人目?」
 
 と、中川は、胡散臭いものを見るような顔で、俺を指差す。
 
「そーなんだ。やっと見つけた。高橋が着いたら、さっそく始めるから」
「どーいうことなんだよ。まったく意味が分かんねーぞ?」
 
 俺は、状況が飲み込めず二人に問い掛けた。
 
「……希さん、まだ何も話してないの?」
「いまコレ書いてもらったとこナンだよ」
 
 希は、さっき俺が書いた入所申込書を中川に見せた。
 
「……樋口直? 静岡から拉致ってきたの?」
 
 中川は、興味津々な様子で希に聞く。
 
「拉致って、人聞きの悪い言い方するなぁ。フツーに連れてきたんだよ」
 
 希は、笑って言った。
 
 ……そう言えば、この中川って男、さっきから希とフツーに話してるよな。
 事務所の社長の息子を相手に、こんなタメ口聞くなんて、こいつも何者だ?
 
「あ、自己紹介がまだだったね。ボクの名前は、中川盟なかがわ めい。高校1年だから、ボクの方が2つ年下だね」
 
 俺の視線に気づいたのか、中川は、入所申込書の俺の生年月日を指差して言った。
 
「ボクも、樋口くんと同じように、希さんに拉致られたんだよ。3年くらい前かな。長野でね」
「だから、拉致じゃナイって」
「この春、中学を卒業したのと同時に、上京してきたんだ。長野には事務所の支部もないし、地元のテレビ局で経験積んでるだけでは、やっぱり限界があるしね」
「……経験?」
「そう。リポーターとか、地元制作のドラマとか。冬場はスキー場のイベントで盛り上げ役をやったこともあるんだよ」
 
 自己紹介は終わったとばかりに、中川は腕時計に視線をやって、
 
「さっき呼んだってことは、高橋が来るまでまだ時間あるんでしょう? どうすんの?」
「そーだな……。詳しいことは高橋が来てから話すとして……。じゃぁ、中川が事務所のこと色々と案内してあげてくれる? その服のままじゃ、何もできナイし」
 
 と、希は俺の着ている制服を指差す。
 
 ……俺に何をさせる気だ?
 
 不安でいっぱいの俺をよそに、希はさっき俺が書いた入所申込書を中川に手渡した。
 
「コレを総務に出してきてくれる? 後は頼んだよ、中川」
 
 
 
 
 
 
「……なぁ、何がなんだか、わかんねーんだけど」
 
 希の部屋を出た俺は、一緒に部屋を出た中川に聞いた。
 
「アイツがやろうとしてることって、なんなんだよ? 『高橋が着いたらさっそく始める』って、何を? ……っつーか、高橋って、誰?」
「一度にそんなたくさん質問されても……」
 
 中川は苦笑い。
 
「希さんが何を始めようとしているのかは、後で希さんが説明してくれるよ。高橋が来たらね。高橋っていうのは、ウチの事務所の大阪支部に所属している、アイドルの卵だよ。ボクと同じね」
「アイドルの……卵?」
「そう。高橋もボクと同じように、希さんに声をかけられてね。大阪支部の方でレッスンに励んでるって聞いてる。確か、ボクよりひとつ年下だから、中学3年かな?」
「中3?」
「何度か会ったことがあるんだけど、これまたちょっとクセのある奴でね。……あ、ここが総務だよ」
 
 中川は、ひっきりなしに人が出入りしている部屋の中へと入っていった。
 
 
 
 
 
「すんませーん。新しい人、連れてきたんですけど」
 
 事務員らしき女の人に、中川が声をかけた。
 
「あら……中川くんのお友達?」
「いや、希さんが連れてきたんです」
「希さんが?」
 
 中川から入所申込書を受け取った事務員は、その入所申込書と俺とを交互に見た。
 
「樋口直くんね。突然のことでびっくりしたでしょう? 希さん、いつもそうなのよね」
 
『毎度のこと』といったような感じで、事務員はパソコンの画面に向かって、キーボードを叩き始めた。
 
「…………っと、これで登録完了。ご両親には、こちらから連絡しておくから、何も心配要らないわよ」
「えっ? 連絡?」
 
 事務員は、俺が聞き返したのも届かなかったのか、立ちあがって後ろにある棚へ歩いていった。
 
「中川くんは、サイズMだったかしら?」
「あぁ、はい」
 
 事務員の問いに中川が答えると、棚から何かを取り出した。
 
「樋口くん、中川くんと背格好が近いから、これで大丈夫だと思うけど。もし、合わないようならいつでも言ってくれる?」
 
 手渡されたのは……ジャージ?
 
 事務員は、穏やかな笑みを浮かべた。
 
「じゃ、頑張ってね!」
 
 
 

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