スポンサーリンク

11 『妹』をエロ目でなんて見てません!

 
 今回の曲は、『クリスマス』がテーマの曲なんだけど、キーワードは『雪』なんだ。
 汚れのない純白の雪を、恋人への純粋な気持ちと重ね合わせてる……って感じ。
 その恋人自体も、雪のように純粋な人だ、……と。
 
 そんなの、現実にあり得ねぇーって思うけどね、ボクは。
 だから、いつもよりさらにテンションが上がらない。
 
 だけど、高橋は逆にテンション高いんだよなー、なぜか。
 元々、何事にも妥協を許さないやつなんだけど、今回はそれが徹底してる。
 
 今回のPVプロモーションビデオは屋内人工スキー場で撮ったんだけど、『雪の中でPVを撮りたい』と言いだしたのは、実はあいつなんだ。
 
 高橋は寒いのに極端に弱い体質で、すぐ熱出しちゃうから、ボクと直くんは『そんなのCGでやればいいじゃん』って言ったんだけど、それでも断固として譲らなかった(で、案の定、翌日発熱したらしいよ)。
 
 まぁ、スキー場の雪で遊ぶの楽しかったし、PVもなかなかいい感じに仕上がったから、よかったけどね。
 
 PVの中の高橋は、ホントに歌の通り、『降りしきる雪の中で恋人のことを想っている』ようなんだ。
 ここんとこ、ずっと彼女なんていないはずなんだけど、あいつ。やっぱり『役者』だね。
 
 ……まさか、ホントにあの道坂さんが『恋人』で、この歌と重ね合わせてる……とか。
 
 いや……それこそあり得ねぇーっての。あの人のどこが『雪』を連想させるっていうんだよ。
 冗談も、ほどほどにしといてもらいたいもんだね。
 
 
 
 
 
「お疲れ様でしたぁ!」
 
 歌収録が終わって、3人で楽屋に戻った。
 
「そういえばさぁ、高橋。直くんから昨日のこと……聞いた?」
「昨日? 昨日って……何かあった?」
「いや、だから……二次会の話」
「二次会? あぁ、さっき盟くんが話してた……。直くんからは何も聞いてないけど」
「そ、そっか」
 
 ……よかった。直くん、相当酔ってたから忘れてるんだな。
 
「直くーん。昨日何かあったの? 盟くんが……」
「あああっっ! た、たたた高橋! 何もないって!!」
 
 し、しまった!! また墓穴掘った!!
 
「ななな何もないって、ねぇ、直く……ん?」
 
 高橋を半ば押さえつけるようにして直くんに問いかけようとすると、直くんはイスに座って自分の携帯とにらめっこしていた。
 
「……直くん、どうしたの?」
「いや……なんっつーか、携帯のアドレス帳に見覚えのない名前と番号が入ってんだけど……」
「え? どれどれ、見せて?」
 
 直くんがこちらに向けた携帯を、ボクと高橋が覗き込んだ。
 そこには、『須藤汐音』って女の子の名前と、携帯番号が表示されている。
 
 ……『須藤汐音』って誰?
 
「…………あ!!」
 
 隣にいた高橋が突然大きな声をあげた。
 
「何、高橋、知ってるコ?」
「あー……う、うん。須藤汐音すどう しおねって、あの……あのコだよ。奈々子と一緒にユニット組んでる……AndanteのSHIOちゃん」
「え、そうなの? へぇー、こんな字書くんだ。そういえば昨日、直くんがSHIOちゃんに『連絡先聞いてる』って言ってたじゃん」
「はぁぁ? お、俺がかっ!?」
「……まさか、覚えてないの?」
「全っ然記憶にねーな。おまえが『便所行く』っつって席を立ったあたりから、あまり覚えて……あっ、そうだっ! 高橋、こいつな、奈々子ちゃんのことエロ目で見てたぞっ!!」
「だああああっ! なななな何の話かな!?」
 
 なんでそういうことは覚えてるんだよ!?
 
「ほらみろっ。ここに証拠の動画が……あれ? ……れれ? ……ないぞ? っかしーな、ちゃんと撮ったはず……」
 
 直くんは、携帯をあれこれ操作しはじめた。
 なんか良く分からないけど命拾いしたみたいだっ。
 
「高橋っ。ボクはね、奈々子のこと全然エロ目でなんてみてないぞ。あいつは、ボクにとって大事な、大切な『妹』だ。おまえが映画の撮影で東京を離れてる間は、ボクがあいつを守ってやるからなっ!」
 
 高橋の背中をバシッと叩いて、……うん。この場を乗り切ったぞっ!!
 
「ちっくしょー。なんでねぇんだ?」
「直くん……ここを殺人現場にしたいの?」
「僕は別に誰も殺したりしないし……」
 
 高橋は苦笑いをして言った。うーん……こいつも少しは丸くなったってことか?
 
「……で、これ、本当に俺が連絡先聞いたのか?」
「うん。『連絡先聞いてる』って言ってたよ。酔ってたみたいだけど」
「……は? 俺、酒は飲んでねーぞ?」
「ええぇ!? いや、酔ってたよ? まさか、ボクが飲んでたのがオレンジジュースだと思ったとか?」
「おまえのは、カシスオレンジだろ? 飲んでねーぞ」
 
 じゃぁ、いったいなんであんなに酔ってたんだ? 謎だ……。
 
「これ、どうしろっつーんだよ。俺、仕事以外で女に電話かけたことなんて一度もねーんだけど」
「マジで? 直くんって、見かけによらず真面目でシャイでオクテだよねー。あ、まさかまだ高校の時の初恋をひきずってるとか?」
「……んなわけねーだろ。何年経ったと思ってんだ? それに、あいつはもう結婚してんだ。すっぱりあきらめついてんだよ」
 
 ……ってことは、結婚してなかったらあきらめついてなかったってことでしょ?
 なんて一途なんだよ(っていうか、あれが『初恋』だったことは否定しないんだね)。
 
「直くんってさぁ、もしかして、『彼女いない歴30年』?」
「………………………………」
 
 直くんは、ボクから視線をそらして答えようとしない。
 
「まさか、まさかとは思うけど…………童貞?」
「……んなわけねーだろっ!!」
 
 ドガッ…………!!
 
「……って! いってー!! 直くん、何すんだよ!?」
 
 直くんに……ケツ蹴られたよ、ケツ。……っていうか、これは……図星じゃないの?
 
「……と、いうか……電話かければいいんじゃないの? 直くんはさぁ、『イイ男』だから、全然大丈夫だと思うけど」
 
 ボクと直くんのやり取りを見ていた高橋がぼそぼそっと呟くように言った。
 
「……お? そ、そうか? やっぱ高橋は俺のこと分かってくれてると思ってたんだよっ!」
「うん。直くんとSHIOちゃんなら、お似合いだと思うよ、僕は」
「そういえばさぁ、高橋。SHIOちゃんって、おまえのファンなんじゃないのかな?」
 
 そうなんだよな。SHIOちゃんの態度が、なんか少し疑問が残るんだよな……。
 
 ボク、てっきりSHIOちゃんは高橋のファンなんだと思ってたのに、SHIOちゃんは直くんと連絡先教え合ってたんだよね。
 まさか、『直くんを踏み台にして高橋に近づく』なんて……直くんの昔の心の傷をえぐるようなことだったりして。
 
「……え? SHIOちゃんが僕のファン? それは……あり得ないよ。むしろ、たぶん……嫌われてると思う」
 
 高橋ははっきりと否定した。
 
「え? なんで? っていうか、SHIOちゃんと面識……あ、奈々子経由で?」
「いや……あの、高校の同級生なんだ。僕と奈々子が『兄妹』ってことは、知らないと思うよ」
「へぇ、同級生なんだ。……っていうか、『知らない』とか『嫌われてる』って、なんで分かるんだ?」
「うん? ……うーん、なんとなく。歌番組で共演したときに感じる、突き刺さるような冷たい視線とか」
 
 いや、それ……単純にSHIOちゃんの視力が悪いからなんじゃないのか?
 
「とにかくさ、SHIOちゃんが連絡先教えてくれたんだったら、きっと直くんに対して少しは気があるってこと……だと思うよ。あのコは『鉄壁』って言われてたくらい、ガードが堅いから。SHIOちゃんの心を動かすようなこと、何か言ったんじゃないの?」
「いや……何か特別なことを言った覚えはねーけど」
 
 直くんは少し考えて、
 
「……よくわかんねーけど、明日にでも連絡してみっかな?」
 
 って、『今日帰ったら』とかじゃないんだ。なんか、こう……もどかしいね。サクッと掛けちゃえばいいのに。
 ……え? ボクが軽いんですか? いやーそれは気づかなかったな。
 
「ところで……なぁ、高橋、今日誕生日だろ? たまには3人でメシでも食いに行かない?」
 
『誕生日』なんてのは、ただの口実だけど、とりあえず腹も減ったし……ってことで、高橋に声をかけてみた。
「……ん? うーん、どうしようかな……」
「最近、おまえ付き合い悪いぞ。彼女いないんだったら、いったい何やってんだよ」
「いや……だからさ、彼女は……」
 
 言いかけて、高橋はふぅ……っとため息をついた。
 
「……盟くん、いま何時?」
「え? えっと……もうすぐ8時だけど。誰かと約束してた?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
 
 高橋は何やら難しい顔をした後、「……ちょっとトイレ行ってくる」と、楽屋を出た。
 
「ねぇ、直くんもいいでしょ? たまには3人でメシ行こうよ」
「あ? あぁ、別に構わねーけど……」
 
 そんな短いやりとりの間に、高橋が勢いよくドアを開けて楽屋に戻ってきた。
 
「んなっ!? 高橋、おまえ、早ぇな!?」
「二人とも、ごめんっ。ちょっと……急用ができた」
 
 高橋はそう言って自分のカバンをガバッと開けて中身を確認して、何かをジャケットのポケットにしまった。
 ……あれ、指輪のケース? …………えっ!? 指輪!?
 
「ちょっ……高橋、おまえ……?」
「ほんと、ごめん! 飯ならまた今度……僕の奢りで」
「俺は年下に奢られる趣味はねーっつーの」
「なんでもいいから、とにかく、今日はお先にっ!」
 
 いつもはどちらかというと物静かな高橋にしては珍しく、バタバタバタッと弾丸のように楽屋を出ていってしまった。
 
「……ねぇ、直くん。いまの……見た?」
「あ? あいつの行動が意味不明なのは、昔っからだろ?」
「いや、まぁ……あいつの行動が意味不明なのは、昔っからだけどさぁ……」
 
 さっきの、どう見ても指輪のケース……だったよな。
 あ……。ま……まさかっ!!
 
『誕生日』 + 『指輪』 = 『プロポーズ』 …………!?
 
「げぇぇ!? なんだよっ!! あいつ、やっぱり彼女いるんじゃん!!」
「はぁ? なんでだ?」
「だって、あいつ、さっき指輪のケース持ってたよ? で、今日はあいつの誕生日でしょ? あいつ、プロポーズする気なんじゃないの!?」
「マ、マジか!? 俺らん中でも一番年下だっつーのに生意気なっ!!」
 
 いや、注目すべきはそこじゃないよ、直くん。
 
「チックショー!! 相手はどんな人だ!?」
「あ、まさか、さっき廊下で彼女を見かけたんじゃないの!?」
「……っつーことは、このギョーカイの人ってことか!?」
「…………ねぇ、さっきもこんな会話なかった?」
「あ? あぁ、そういえば……。あいつ、なんて言ってたっけ?」
 
 
『……道坂さん。…………お笑い芸人の』
 
 ボクと直くんは、さっきの高橋の言葉を思い出して顔を見合わせた。
 
「……いや、やっぱ……あり得ないよね?」
「あ、あり得ねーだろ、いくらあいつが『変人』だからってよ」
「……直くん。せめて『個性的』って言ってあげたら?」
「どっちにしたってよ、あり得ねーことには変わりねーだろ?」
「だよねー……。はぁぁ……いったいどういう人なんだろうなぁ、高橋の彼女って」
「30手前にして結婚を決意するくらいだから、やっぱ相当な美人女優とかなんじゃねーの?」
「あぁぁ……いいなぁ、高橋は」
 
 いつだって……前を向いている。
 きっと本当に『彼女』のことを愛していて、その『彼女』との未来をしっかりと見つめて、先に進もうとしているんだ。
 
 ……やっぱり、『オレ』とは大違いだな、高橋は。
 
「おい、中川。おまえは、どうなんだ?」
 
 ふいに、直くんがボクに振った。
 
「えぇ? ボク? 何が?」
「その……結婚とか……考えたりしてねーのか? おまえだって、もう29だろ?」
「それを言うなら、直くんだって、30じゃん? だいたい、ボクらなんてこのギョーカイじゃまだまだ若い方じゃん。結婚なんて、40近くなってからでも遅くないでしょ?」
 
 なんて……そんな歳になったって、きっと結婚なんてしないだろうけどね、ボクは。
 
「はぁぁ……んじゃ、今夜は取り残された二人でメシでも行きますか」
「あぁ、そうだな。俺はきょうもバイクで来たから、この局の近場でどっかねーかな」
 
 そんなわけで、寂しい野郎二人は近場のそば屋に向かった。
 
 
 
 
 

0