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12 『妹』からのSOS。

 
「んんー、やっぱりそばは最高にうまいねっ!! ボク、長野出身だから、そば大好きなんだ」
 
 ボクは、アツアツの天ぷらそばをずずっとすすった。
 
 晩飯のピークをすぎた午後8時過ぎ。
 たまたま開いていた座敷に二人で陣取って、直くんと向かい合って座った。
 
 テーブルの上には、天ぷらそばの他に、から揚げやポテトサラダ……他にもいろいろとおつまみが並んでいる。今日は飲まないけどね。
 
 明日は高橋のおかげでオフだから、こうしてのんびりつまみながら直くんとじっくり話をするっていうのもいいんじゃない?
 
「そういえばよぉ、前から疑問に思ってたことがあるんだけど、聞いていいか?」
 
 同じく天ぷらそばを食べている直くんが、少し遠慮がちに聞いた。
 
「ん? 何?」
「おまえ、長野出身だろ? なのに、昔から訛りとかねーよな」
「あー……。ボクの地元は割と都市部だし、長野自体、そんなに訛りの強い地域じゃないよ。それに、こっちの高校のクラスメートとかの影響も大きいんじゃない?」
「そういうもんか?」
「うーん……あまり意識したことないけど。高橋は、あれだね。いまは完全に標準語だけど、関西の芸人さんと仕事するとき、イントネーションが微妙に関西弁になってるよね」
「あー……そうだな」
 
 直くんはうなずきながら、からあげをひとつ口の中に放り込んだ。
 
「でもさぁ、高橋といえば……、大丈夫なのかな?」
「……んぁ? 何が?」
「ほら、もし、さっき言ったとおりプロポーズしたとしてさ、うちの事務所が結婚なんて許すかな?」
「あー……そう言われれば、そうだな。あいつ、まだ若いし……いま映画もやってるしな。映画の番宣にしちゃぁ、結婚は強烈すぎるだろ」
「前にさぁ、SEIKAの坂田さんが、2年くらい前に彼女にプロポーズしたらしいんだけど、事務所がなかなか許可出さなくて、もたもたしてるうちに彼女が別の男のとこに行っちゃったんだって」
「坂田さんが? ……そういえば、えらく落ち込んでる時期があったな」
「高橋は言いだしたら絶対譲らないタイプだからさぁ、事務所ともめたら移籍するとか言いそうじゃん。そうなったらさぁ、ボクたちどうすんの?」
「さぁ、それはそうなってみねーとわかんねーけど」
「だってさ、あいつが抜けたら、『Hinata』の『ta』がなくなって、『Hina』だよ? ちょっと間抜けじゃない?」
「気にするところは、そこか?」
「冗談に決まってるじゃん。まぁ、もしあいつがホントに移籍するなら、ボクらも一緒に……だろうね」
「……だろうな。こういうときに、『アイツ』がいたら、なんとでもなりそうだけどな」
「え? 『アイツ』?」
「希だよ、希。『Hinata』を作った張本人だろ」
「あぁ……希さんか。そうだね、あの人なら、なんとかしてくれそうだね」
 
 そういえば、希さん……元気にしてるかな?
 もし、ホントに事務所ともめるようなことがあったら、連絡とってみようかな。
 ……まぁ、彼ならどこかから噂を聞きつけて、ひょっこり現れそうだけど。
 
 ちゃ~ちゃららちゃ~~♪
 
 ん? 携帯の着信音?
 
「……あ、俺のだ」
 
 直くんがシャツの胸ポケットから携帯を取り出した。
 ……っていうか、いまの着信音、クラシック音楽だった気がするけど……こういうの好きなのかな?
 
 直くんは、携帯の画面を見て固まっている。
 
「どうしたの? メール?」
「あ!? そっ……あぁ、メールだっ!!」
「直くん、なんでキョドってんの?」
「べっ……別にキョドってねーっ!」
「あ、もしかして、女の子から?」
 
 ボクが何気なく聞くと、直くんは顔を真っ赤にして、
 
「なななな、なんで分かるんだっ!?」
「直くんさぁ、女の子からメール来たくらいで、なんでそんなキョドるの? っていうか、どんなコ?」
 
 ボクがからかうように言うと、直くんはしぶしぶ携帯の画面を見せた(いや、別に見せてくれなくても……)。
 
「……『須藤汐音』? あ、SHIOちゃんじゃん」
「あぁ、なんか、『昨日はどうも』みたいな……内容だ」
「よかったね、向こうからメールが来て。直くんからは一生かかっても連絡とれないでしょ」
「そんなことはねーけど。っつーか、これ、どう返事したらいいんだ?」
 
 あ、一応返事はするつもりなんだ。
 っていうか、天下のアイドルグループ『Hinata』の樋口直が、女の子からの社交辞令メールに返信するってだけで、なんでこんなもたついてんだよ。
 
「そんなのさぁ、『こちらこそ、どうも』って返せば? あとは適当に……」
「その『適当』が難しいんだろーが」
「じゃあ、ボクが代わりに文面考えてあげよっか?」
 
 ボクが直くんの携帯に手を伸ばすと、
 
「……いいっ。自分でやるっ!!」
 
 と言いながらくるっと背を向けた(って、三歳児かよっ)。
 まぁ、ボクがメールしたら完全に直くんとは別人の『超軽い男』になっちゃうしね。
 
 ……そういえば、奈々子の方はどうしてるんだろう?
 あいつ、雑誌の記者に声かけられたって言ってたな。
 
『明日、一緒にお食事でもしながらお話しましょっ』って言われたらしいから、昨日の明日は、今日だよな。
 
 しまったなぁ、何時頃とか聞いてなかったけど……、大丈夫かな?
 いまは、もうすぐ10時か。さすがに、もう終わってるよな……。
 
 じゃ~んじゃららじゃ~~ん♪
 ……あ、ボクの携帯だ(ちなみに、着メロは昔懐かしのガン○ムだ)。
 
 ん? 見慣れない番号から……メールじゃなくて着信だ。
 
「直くん、ちょっと店の外行ってくるね」
 
 ボクは、メールと格闘している直くんに声をかけて、店の外に出た。
 
 
 ――誰だろう?
 
「……もしもし?」
『…………あ、もしもし。……盟にぃ?』
 
 あ……あいつか。
 ボクのことを『盟にぃ』なんて呼ぶ人は、この世に一人しかいない。
 
「おう、奈々子。どうした?」
『あ、あの……あのね、いま……忙しい?』
 
 ……? なんか、少しいつもの元気がないような気がするけど。
 
「いや、全然。いまね、直くんとメシ食ってたとこなんだ。っていっても、ぐだぐだしゃべってただけなんだけどさ」
『そ、そっか……』
「……? どうした? 何か……あ、雑誌の取材とかいうやつ……大丈夫だったか?」
『あ、うん。……それは、大丈夫だったんだけど…………』
 
 ……『だけど』?
 奈々子は、そこで言葉を切って、黙ってしまった。
 
「何かあったのか? おまえ、いまどこにいるんだ?」
『…………カエルのお店の前』
「カエル……?昨日のバーか?」
『……うん』
「今日はもう仕事は……終わりだよな?」
『……うん』
 
 確か、昨日のバーはさっき仕事をしていたテレビ局の向こう側にあったはず。
 ここからは、そう遠くない。歩いて行っても5分とかからない。
 
「ちょっ……そこで待ってろっ。こんな時間に外うろついてたら、危ないだろ。ボク、いま近くにいるから家まで送ってくよ」
 
 ボクは、奈々子にその場を動かないよう念を押した後、そば屋の中にいる直くん(まだメールと格闘中かよ……)に事情を説明して、ダッシュで『カエルのお店』に向かった。
 
 
 
 
 飲食店の並ぶ夜道を走りながら、考えてた。
 
 電話の向こうの奈々子の声……どこか不安げな感じだった。
 いつだって笑顔で、元気なあの奈々子が……昔迷子になってコンビニの前で酔っ払いに絡まれてたときのように、今も何かに対して不安を感じている。
 
 あのときは、確か……兄である高橋と離れるのが嫌だといって泣いていた。
 じゃぁ……今は? 今回も、高橋絡みか?
 
 まさか、『雑誌の記者』に、高橋と『兄妹』であることを感づかれて……?
 
 ……分からない。でも、とにかく……ボクが行かなきゃ。
 大切な『妹』を守るために。
 
 
 
 

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