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17 カノジョと堂々デート。

 
 
 紗弥香と一緒にのんびりと過ごした(って言っても、あのあと二人で寝ちゃったけどね)オフが終わって、次の日から、また新曲のプロモーションの仕事。
 
 もう、『朝から晩まで』なんてもんじゃない。
『朝から朝まで……そして、晩も通り過ぎて、再び朝』みたいな。もう殺人的スケジュール。
 
 わずかな待ち時間にメシを腹に流し込み、スタジオから次のスタジオへと移動する間の車中で仮眠。
 
 ここまで忙しいことなんて、ここ数年なかったから精神的にも体力的にもかなりキツイ(ボクももう29歳だからさぁ、そんなに若くないんだよ)。
 
 そんな状態だったから、ホントは高橋に、道坂さんとどうなったのか聞いてみたかったんだけど、聞けないまますべての日程を終えてしまった。
 
 ……まぁ、高橋は普段通りに仕事こなしてたから、たぶんきっと、うまくいってるんだろうな、とは思うけど。
 
 
 
 そうして、プロモーションを終えた高橋は再び無人島での映画の撮影に戻り、ボクと直くんもそれぞれの仕事に戻った。
 
 ボクは一人で活動するときはバラエティーの仕事が多いんだけど、直くんは舞台が多い。
 
 昔は、前屈さえアヤシイくらい身体が硬かった直くんだけど、いまじゃぁHinataで一番ダンスもうまい。デビュー当時、通ってた高校も行かずにレッスンに励んでたからね。
 
 で、歌もうまいから、ミュージカル的なことを中心にやってる。ボクには絶対出来ない分野だね。
 
 
 
 
 
 
 プロモーションの仕事を終えた数日後の土曜日。
 
 今日の仕事は夕方からだから、午前中はこの間約束した通り、紗弥香と一緒にクリスマスプレゼントを選びに出掛けた。
 
 12月に入って、街はますますクリスマスモード。
 いたるところにツリーが飾られてるし、いろんなクリスマスソングが聴こえてくる。。
 
「盟、なんだか機嫌が良さそうだね」
「ん? そうかな?」
 
 紗弥香と、ちゃんと付き合っていこうって決めてから初めて一緒に出掛けるから、ちょっと新鮮な気分。
 
「……また、笑ってる」
 
 紗弥香は、ボクにつられて笑顔になった。
 よく考えてみたら、女のコと一緒に出掛けて、こんなにウキウキしちゃってるのなんて……初めてかもしんない。
 
 いままでは、心の底から楽しんでたことはなかったし、それに……昔、愛理と付き合ってた頃は、ボクは既にHinataとして活動していたし、愛理も大御所俳優の娘ってことで、世間にバレるのが怖くて一緒に出掛けてもどこかでビクビクしてたんだよな……。
 
 ボクは左手で、紗弥香の右手を握った。
 
「……えっ? め、盟?」
 
 紗弥香は驚いてボクの顔を見た。
 いつもは、たいてい紗弥香の方から腕を組んでくるような形なんだけれど、こんなふうにボクから手をつないだことなんて、初めてだからね。
 
 腕を組むよりも、肩を抱くよりも……こうして手をつなぐってことが、なんだかちょっと照れくさい。
 なんか、純情な中学生カップルみたいな感じ?
 
「……で、何が欲しいか、決めた?」
 
 ボクが聞くと、紗弥香は首を横に振った。
 
「なぁんで決めてないんだよ」
「だって、改めて『何が欲しい?』って聞かれても……浮かんでこないよ」
 
 ……そういうもんかな?
 
「じゃぁ、ボクが決めちゃうよ?」
 
 紗弥香がうなずいたので、ボクは腕組みをして考えた(せっかく手ぇつないだのに……)。
 
 ……で、自分でも、ものすごく意外なんだけど。
 ボクと紗弥香とで、お揃いで何か身につけていられるものがいいな、なんて思ってる。
 
 うーん……。紗弥香は、アクセとかあんまり興味ないみたいなんだよね。
 ボクとしても、仕事のときもできるだけ身につけていられるようなものがいい。
 アクセじゃないけどいつも身につけていられて、なおかつ実用的なものだったら言うことない。
 
 ……とくれば、もう『あれ』しかないと思う。月並みなんだけど。
 再び紗弥香の手をとって、歩きだしたボクが向かったのは……そう、時計屋。
 
 
 
「こういうのなんて、どう?」
 
 小さな店内のショーケースに並べられた腕時計をざっとみて、なんとなく気に入ったペアの腕時計を指差してボクが言うと、紗弥香は値段を見て固まってしまった。
 
「め、盟……これは、いくらなんでも高過ぎるんじゃない?」
「そうかなぁ。だって、ペアで15万だよ? むしろ、安いよ」
「盟の感覚では、でしょ? わたしから見たら、桁が違うの」
「桁? ……ちょっと待って。紗弥香がいましてる腕時計って、いくら?」
 
 ボクが聞くと、紗弥香はうつむいてぼそっと答えた。
 
「…………1980円」
「ええぇ!? マ、マジで!? そんなのどこで買ったんだよ?」
「……ディスカウントストアで」
 
 おいおいっ!! 29歳OLがディスカウントストアの腕時計なんて使うなよっ!!
 
「……ったく。んじゃぁ……こんくらい」
 
 次にボクが指差したのは、シンプルなアナログの腕時計。
 ベージュの文字盤に、ベルト部分はダークブラウンの革。なんか、ナチュラルな感じ。
 値段は、ペアで約5万。
 
「こんくらいなら、いいだろ? 仕事にもしていけるし、紗弥香が普段着てる服にも合ってると思う」
「うーん……。でも、わたしにはちょっと高い気が……」
「そんな、2、3万の時計にビビるなよ。もし、調子が悪くなったりしても、ここで直してもらえばいいじゃん。そうですよね?」
 
 ボクが店員に視線を向けると、店員は穏やかに笑ってうなずいた。
 
 
 
 
 
 
「盟……ありがとっ。大事にするね」
 
 店から出ると、紗弥香は自分の左腕に着けた真新しい腕時計に触れながら言った。
 
「あんまり大事にし過ぎて、どっかにしまったままにしとくなよ? ちゃんと使わなきゃ、意味ないんだからな」
 
 ボクが言うと、紗弥香は小さくうなずいた。
 
「……あ、わたしからは、何をプレゼントしようかな? 盟は、何がいい?」
「うん? ……いいよ。ほら、ボクも紗弥香とお揃いで腕時計買ったし」
「そんなの、ダメだよっ。わたしからも、何かプレゼントさせて」
「ん……じゃぁ、とりあえず歩きながら考えようぜ。立ち止まってたら、寒いだろ」
 
 言いながら、ボクは空を見上げた。
 
 ボクの心はこんなに晴れ晴れとしているのに、きょうの空はどんよりと重たい。
 真冬のように空気が冷え込んでいるというよりは、天気の良かったここ数日のような日差しがない分、寒く感じる……といった感じ。
 いつもより、いくらか空気が湿っている気がする。
 もしかしたら、雨が降るかもしれないな。
 
 
 
「……あ、盟、見てっ。あれなんて、どう?」
 
 そう言って紗弥香は、ファッション小物の店の前で足を止めた。
 紗弥香が指差していたのは、店のショーウィンドウの中のマネキンが着けているマフラー。
 
「ほら、あの緑色なんて、盟に似合いそうじゃない?」
「そうか? まぁ、結構好きな色だけど……」
 
 男女のマネキンが立っていて、そのうちの男のマネキンに着けられている深い緑色のマフラーが気になっているらしい。
 女のマネキンの方は……ワイン色マフラー。
 なんだか……二つ揃うと、いかにも『クリスマス』っぽい。
 
「……でもさ、こういうショーウィンドウに飾られてるのって、結構高かったりするじゃん。1980円の腕時計してた紗弥香がビビるような値段なんじゃない?」
 
 ボクがからかうように言うと、紗弥香は少し怒ったように唇を突き出して、
 
「そぉんなの、大丈夫よっ。ちょっと、お店の人に聞いてみるっ」
 
 そう言って、紗弥香は店内に入っていってしまった。
 
 
 
 
 
 

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