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24 『妹』を説得、そして決心。

……高橋のヤツ、やっぱりやらかしやがった。
 クリスマスイブの生放送特番(しかもゴールデン)で、道坂さんと大ゲンカ。
 
 もちろん、高橋が変なこと言いだしたときに止めたんだよ、『おまえ、何言ってんだよっ? 生放送だぞっ?』って。
 
 だけどあいつ、ボクの声なんて全然聞こえてないんだもんな。
 
 高橋が道坂さんのことをひっぱたいて。
 道坂さんが高橋に蹴りを入れて。
 道坂さんがスタジオを飛び出した後、コンストラクションの阿部さんがさっきの週刊誌の記事について説明してくれて、高橋の誤解は解かれたわけなんだけど。
 
「……だからね、道坂サンは、無実。潔白ですわ。なんにも悪いことなんかしてへんよ。でも、高橋クンは、どうなん?」
 
 阿部さんが取り出したのは、例の『高橋と奈々子の熱愛報道』が載ったスポーツ新聞。
 そういえば、高橋はずっと無人島にいたから……この記事のこと、知らないんだよな。
 
「は……? 僕……と、奈々子が…………はぁ? 熱愛!?」
 
 案の定、高橋は一瞬驚いた表情にはなったけど、すぐに呆れたって顔をして……今度はハッと表情を変えて、最後には小声で「……しまった」とつぶやいて、頭を抱えた。
 
 まさか、こいつ…………道坂さんに、『奈々子は妹だ』ってこと、言ってなかったなっ!?
 あぁ……やっぱりこいつ、肝心なところで抜けてるわ。
 
 でも、これで納得。
 奈々子が『道坂サンに嫌われてる』と感じていたのは、気のせいでもなんでもなかった。
 
 奈々子が『高橋の妹』だってこと知らない道坂さんが、高橋のまわりをちょろちょろしている奈々子を『高橋の恋人』と勘違いして敵意を持った……ってとこだな。
 
「道坂サンが言ってた、高橋クンの熱愛報道って、これのことやと思うよ。前に、居酒屋で飲んでたときも、このコ来てから高橋クンの態度おかしかったし、ボクも『この二人、なにかあるな』って思ってましたしね」
「ちっ……違います!! 僕と奈々子は――――」
「ちょっと待って!!」
 
 ボクは、高橋の言葉を遮って叫んだ。
 
『Andanteのなーこが、Hinataの高橋諒の妹である』ということ。
 これは、やっぱり奈々子本人の口から言わせてやりたい。
 あいつは、いままで頑張ってきたんだ。
 
『あたしは、あたしの力で、……諒クンや盟にぃのところまで行くんやって、決めてんねん』
 
 宣言通り、あいつは自分の力でボクらのところまでやってきて……そして追い越していった。
 それを、あいつがちゃんと自覚して……自信を持ってほしい。
 
『Andanteのなーこ』として。
そしてもちろん、『高橋奈々子』という一人の女性として。
 
「あいつに言わせたほうがいいんじゃないか? こうなった以上、あいつにだって責任はあるんだし。それに……おまえには、やらなきゃいけないことがあるんじゃないの?」
 
 と、ボクはさっき道坂さんが出ていった方向を親指で差した。
 
「盟くん……」
「いまなら、まだ間に合う。あいつには、ボクが言っておくから。ちょうど、この局で収録してるって聞いてるから、連れてくるよ。だから……行ってこい!!」
 
 ボクが高橋の背中をドンッとたたくと、高橋はうなずいて、道坂さんを追うようにスタジオを出て行った。
 
 ……なぁんて、ちょっと何気にカッコイイこと言ってるみたいになってるけど、ボク。
 ここで高橋に『貸し』を作っておけば、後々奈々子とのことで何かあったときに少しでも有利に働くかなぁ? なんて計算も……あったりしちゃうわけ。ちょっとだけね(『ちょっと』? ホントか?)。
 
 ……あ、そうだ。
 あいつ、こんどこそプロポーズするはず(ここまでして、『できませんでした』なんて言ったら張り倒すぞっ)だから、いっそのこと、この生放送で全国に流してやったら面白いんじゃない?
 生放送ぶちこわして迷惑かけてんだ。それくらいのことをする義務はあるはずだ。うん。
 
 ボクは直くんに、テレビカメラを持って高橋を追うように話を振ってから、この局で仕事をしている奈々子を連れてくるために、スタジオを出た。
 
 
 
 
 
 Andanteの二人が主演の、年明けから放送されるドラマを収録しているスタジオ。
 そこのスタッフにお願いして奈々子を呼び出してもらって、廊下へと連れ出した。
 
「め……中川サン、どうしたんっすか?」
「奈々子……落ち着いて聞いてくれよ。いま、ボクらが出てる生放送のスタジオで、大変なことが起きてるんだ」
 
 ボクは奈々子の両腕を掴んで、奈々子の目をしっかりと見据えながら言った。
 いつものように、冗談だと思われちゃ困る。
 
「……タイヘンなコト?」
「そうなんだ。この間、奈々子が、『道坂さんに嫌われてる』って言ってたろ? その理由が、分かった」
 
 奈々子は、『なんだろう……?』といった表情で、ボクの目を見つめている。
 
「あいつ……高橋のヤツ、おまえとの関係を道坂さんに言ってなかったんだ。だから、道坂さん、おまえが高橋の『恋人』なんだって……勘違いしてる」
「あ……え? ホントに……? 諒クン、言ってなかったの……?」
 
 奈々子は、『信じられないっ』という感じで手を口元にあてて、目を泳がせた。
 
「いま、高橋は道坂さんにプロポーズしにいってるはずだ。だけど、この間のおまえらの『熱愛報道』、あのままにしといたら、道坂さんがプロポーズにOKしたって、高橋は結婚できるはずがないだろ? 世間じゃ高橋は『Andanteのなーこ』と付き合ってるってことになってるんだから」
 
 ボクが言うと、奈々子は難しそうな顔をして、
 
「……え? 盟にぃ、ゴメン、よく分からないんだけど……」
 
 えー……奈々子に分かるように、どう説明したらいいんだっ?
 
「……だからっ。んー……。いま、あの『熱愛報道』のせいで、『高橋となーこが付き合ってる』と世間に思われてる、っていうのは、分かるか?」
「……うん」
「その状態で、高橋が道坂さんと『結婚します』ってことになったら、じゃぁ『なーこは高橋の何なんだ?』ってことになるのは、分かるよな?」
「……うん」
「じゃぁ……、いま、おまえが何をしなきゃいけないか、分かるな?」
 
 ボクが念を押すように聞くと、奈々子はうつむいた。
 
『不安』――――。
 
 分かる。分かってる。
 いままで自分や事務所が作ってきた自分の『イメージ』が、『高橋の妹』であることを公表することによって変わってしまうことに不安を感じてるんだ。
 だけど…………。
 
「もう、おまえなら大丈夫だろ? 何も不安に感じることなんてない。奈々子が『高橋の妹』だろうとなんだろうと、おまえが『Andanteのなーこ』であり、『高橋奈々子』っていう一人のオンナであることには、変わりないはずだ。そうだろ?」
 
 奈々子はゆっくりと顔を上げて、ボクの目を見た。
 
「盟にぃ…………」
 
 瞳の奥にまだわずかに残る不安の色。
 ボクが……いや、『オレ』が、すべて取り除いてやりたい―――――。
 
 ボクは奈々子を優しく抱きしめた。
 ここはテレビ局の廊下だから、いろんな人に見られてるのは分かってるけど……そんなこと気にしていられない。
 
「おまえの人気とか、CDの売り上げとか、落ちるようなことがあっても、ボクは……オレは、ちゃんとおまえのこと見てる。どんな結果になったって、オレはおまえの味方だし、責任とってやる。だから……安心しろよ」
 
 抱きしめるだけじゃ、きっと足りない。
 ボクができることは、奈々子が安心できるような言葉を思いつく限り並べることくらい…………。
 
 ボクの腕の中にいた奈々子はゆっくりと顔を上げて、再びボクの顔を見た。
 そして、力強くうなずいたその瞳には……不安の色なんて、もうどこにもなかった。

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