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25 『妹』、重大発表。

ボクと奈々子がクリスマス特番のスタジオのドアを開けると、爆音かとも思えるような大歓声が聞こえてきた。
 
「わ……何っ!? すっごい音……っ!!」
 
 奈々子は少々面食らった様子で、手で耳を覆った。
 ボクがこのスタジオを出るときには、静まり返っているといっても過言じゃないくらいだったんだけどなぁ。
 
 ……ってことは、高橋のヤツ……キメてくれたかっ!?
 
 ボクは、奈々子の手をつな……ぐのはちょっと恥ずかしいから、手首のあたりを掴むようにして、スタジオへと入っていくと……おっ、いたいた。高橋と道坂さん。
 彼らもいまスタジオに戻ってきたところみたいだな。
 
 あ~あ、しっかり手なんか握っちゃって……。まぁ、うまくいったみたいで、よかった。
 
 カメラを抱えた直くんが、高橋の顔をアップで映して、いたずらっぽく笑って言った。
 
「『高橋諒のプロポーズ大作戦』、生でオンエア中でぇっす!!」
 
 言われた高橋は、がくっとうなだれた。
 きっと、『やられたぁ~~!!』とか思ってんだろうな? やってやったのは、このボクだ。ふふんっ。
 
 んじゃぁ、こっちももう一仕事……しますかねっ。
 
「連れてきたぞぉ!」
 
 奈々子の手首を掴んだまま、ボクは高橋たちがいるスタジオの中央へと向かって歩き始めた。
 
 
 
「奈々子……自分で言えるよな?」
 
 ボクは、少し緊張した面持ちの奈々子に声をかけた。
 
「……うん。大丈夫っ」
 
 大きく深呼吸をした奈々子は、ボクに笑顔を向けた。
 
「オレは、ここで見てるよ。何も心配すんな」
 
 言いながら、ボクが奈々子の背中をトントンっと叩いて促すと、奈々子は意を決したようにうなずいて、スタジオの中央へ歩み出た。
 
「あのー、なーこちゃんね。この記事について、ちょっと説明してほしいんやけど」
 
 コンストの阿部さんが、例のスポーツ新聞の記事を奈々子に手渡した。
 
 スタジオ中の視線を浴びながら、奈々子は軽く目を閉じて、再び大きく深呼吸。
 そして目を開けて、ボクの方を見つめた。
 
 もう……迷いはないみたいだな。
 うん。大丈夫……。自信を持て―――。
 
 奈々子は自分に向けられたカメラに向かって、いままでずっと言えずにいた事実を打ち明けた。
 
「あたしは、高橋諒の……妹です」
 
 その瞬間、スタジオが壊れるんじゃないか!? ってくらいの大音量が鳴り響いた。
 たぶん、ボクらHinataの三人以外のすべての人の『驚愕の叫び声』ってやつだ。
 
 ……そんなに驚くことか? っていうか、言われなくても気づけよっ。
 この二人、そっくりじゃんっ!!
 
 ま、いいや。奈々子の『重大発表』も見届けたことだし。あとは、コンストの阿部さんが適当に仕切ってくれるだろう。
 
「直くん、直くんっ」
 
 ボクは、スタジオの盛り上がりにもこれといって興味がなさそうな直くんに声をかけた。
 
「あ? 何だ?」
「高橋のヤツさぁ、どんな風にプロポーズしてた?」
「どんな……って。俺は離れたところでカメラ抱えてたから、声はあまり聞こえなかったんだけどよ」
「あ、そうなの? マイクとかは?」
「竹ノ原さんが、ガンマイク」
 
『ガンマイク』って、あの長ぁーい棒の先にフサフサがついてる……アレね。
 
「それにしても、マジ驚いたぞ。高橋のヤツ、道坂さんに頭下げて謝ったかと思ったら、今度は指輪なんか取り出しやがって……。あいつ、婚姻届まで準備してやがったぞっ」
「こっ……婚姻届っ!?」
 
 高橋……どっか抜けてる割には、妙なところで準備が良すぎだろっ!!
 
「中川……おまえ、知ってたのか?」
「何が?」
「だから……高橋と道坂さんのこと」
「あぁ……ついこの間、奈々子から聞いたんだ」
「奈々子ちゃんから?」
 
 ボクと直くんが同時に奈々子の方へと視線を向けると……ん?
 
「ねぇねぇ、なんでいままで兄妹であるってこと隠してたの?」
 
 女性陣のうちの誰かが、奈々子に聞いていた。
 
「……自分一人の力で進んでいかなきゃ、意味がないから……。でも、盟にぃが、『いまのおまえなら、もう大丈夫だろ』って。もし、諒クンの妹だって公表して、あたしの人気とかCDの売り上げとか落ちるようなことがあったら、盟にぃが責任とってくれるって」
 
 そう奈々子が言うと、スタジオ中の視線がボクの方へ向けられた。
 
 ……え? 何? ちょっと待ってくれよっ?
 ボク、そんなこと……言ったか?
 頭の中で、数分前に……巻き戻しっ。
 
『――――おまえの人気とか、CDの売り上げとか、落ちるようなことがあっても、ボクは……オレは、ちゃんとおまえのこと見てる。どんな結果になったって、オレはおまえの味方だし、責任とってやる。だから……安心しろよ』
 
 うわぁぁぁ、言ってるっ!!
 確かに言ってるけど……微妙にニュアンスが違うんだよっ!!
 
 奈々子が言ったのって……聞きようによっちゃぁ、ボクがまるでプロポーズでもしてるみたいじゃんっ!!
 そりゃもちろん、奈々子のこと好きだけど、まだそこまで考えてな……げげっ!!
 高橋が……高橋がこっち見てるっ!
 
 ちちちちちち違うんだっ、高橋っ!! ボクは奈々子に(まだ)何もしてないっ!!
 頼むから、殺さないでくれぇぇぇぇぇっ!!
 
「盟にぃに、そんなプロデュース能力あるのかなぁ? あたしについてるプロデューサーって、超一流の人なんだけど」
 
 ―――――――おいっ。そういう意味でも言ってないぞっ!?
 あぁ……こいつが『超天然娘』だってこと、忘れてたよ。
 
 
 
 その後、コンストの花本さんや、プラタナスの福……えーっと、そう、福山と中継で話をして、この騒動は一段落。
 奈々子も、自分の仕事に戻っていったわけだけど。
 このスタジオを出る前に、ボクにこんなことを言い残していった。
 
「盟にぃ、盟にぃっ」
「ん? どうした?」
「もう、みんなの前で『盟にぃ』って呼んでいいんだよねっ?」
 
『盟にぃ』――――――。
 
 ってことはさぁ、やっぱ、おまえにとっては『兄』なんだな。
 できることなら、『盟くん』とかさぁ、なんだったら、『盟』って呼び捨てでも全然構わない……けど。
 
「そう……だな。おまえの好きなように呼んだらいいんじゃない?」
「うんっ。じゃぁ、あたし、ドラマの仕事に戻るねっ。また後でねっ、盟にぃ!!」
 
『盟にぃ』と呼べるってだけで、あんなにうれしそうにするんだもんなぁ……。
 ボクの本音なんて、言えるわけ……ないじゃん。

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