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第四章 ボクの『妹』 Epilogue

 12月24日午後11時25分。
 Fテレビの地下にある、駐車場につながる出入り口のところに、自販機や数脚の長椅子が置いてあるスペースがあるんだけど。
 ボクは、そこで奈々子が来るのを待っていた(帰り支度をしてるときに、ここで待ってることをメールしといたんだ)。
 
 さっきまで直くんも一緒にいて、直くんの挙動不審ぶり(SHIOちゃんのことを待ってるってのを知られたくなくて)があまりに面白くて、からかって遊んでたんだけど。
 いまそのSHIOちゃんが支度を終えて降りてきて、直くんと二人で駐車場へと消えていった。
 
 SHIOちゃんが終わったってことは、奈々子ももうそろそろ降りて……おっと、エレベータが到着。
 エレベータのドアが開いて出てきたのは……なぁんだ。高橋と道坂さんだった。
 
 二人はボクに気づいて、足を止めた。
 
「盟くん、お疲れ様」
「おう、高橋。お疲れーっ。道坂さんも、お疲れッス」
 
 ボクが言いながら会釈すると、道坂さんも「お疲れさま」と返した(無表情で)。
 
「盟くん、今日は車なの? 珍しいね」
 
 今夜は奈々子と出かけるって分かってたからなっ……とか、言えるはずもなく。
 
「あ……あぁ、そういう高橋こそ、最近にしては車だなんて珍しいんじゃない?」
「うん。一旦家に戻ったから、なんとなく……気分でね、車で来た」
 
 ……とかなんとか言って、元々この後道坂さんと一緒に帰るかどこか行く気だったんじゃないの?
 たぶん……今日の大騒動がなくったって、こいつなら自分でなんとかしたんだろうな。
 
「ところで、盟くん」
 
 高橋がボクの方に寄ってきて……ちょっと内緒話。
 
「僕の家の郵便受けに……『アレ』入れてったの、盟くん?」
「あ、そうそう。オレ。ずっと借りっぱなしだっただろ? ちょうど近くに用事があったから、ついでに突っ込んでったんだけど……要らないか?」
 
 ボクがからかうように道坂さんの方に視線を送ると、高橋は少し困惑した様子で、
 
「……い、要るけど。お願いだから、今後は郵便受けには……」
「はいはい、分かってるよ。っていうか、おまえ結婚したら引っ越しとかするのか?」
「ん? ……いや、引っ越すつもりはないけど」
「おまえさぁ、もしかして、最初っからそのつもりだったとか?」
 
 ボクの問いに、高橋はボクから視線をそらして、無言でフッと笑った。
 この表情は……『肯定』だな?
 あぁー、ホント、こいつの頭ん中覗いてみたいよ。
 
「じゃぁ盟くん、お先に。……みっちゃん、行こうか」
 
 高橋は道坂さんのとこまで戻っていって(『みっちゃん』だって。仲の宜しいことで……)、一緒に駐車場の方へと歩き始めたとき、エレベータのドアが開いた。
 
 出てきたのは奈々子と……なぁんで希さんが一緒にいるんだよっ!!
 
「あっ、諒クン、道坂サン、お疲れッス!!」
 
 奈々子は片手をびしっと上げて言った(なんでこんなハイテンションなんだよ?)。
 
「あぁ、奈々子。おまえも今から帰るんか? なんやったら、一緒に乗ってくか?」
 
 高橋が、手にしていた車のキーを揺らした。
 
「あ、えっと……」
 
 奈々子は、ちょっと困った表情でボクに視線を向けた。
 ここで奈々子が高橋に従ったら、一緒にケーキ食いに行けなくなるじゃんっ。
 
「いくら奈々子がおまえの妹だからって、そんな野暮なことするかよっ。おまえ、東京に帰ってきたの一か月ぶりくらいだろ? せっかくのイブだし? 一分一秒でも早く、『彼女』と二人っきりになりたいだろ?」
 
 ボクがからかうように言うと、高橋は苦笑いをして、
 
「そうは言っても、僕、スタジオでの映画撮影がまだ残ってるんだよね。今日もこれから一度帰って……2時間後には出ないと……」
「じゃぁ、なおさらじゃん。さっさと帰れよっ。安心しろよ、奈々子はオレが送ってってやるから。なぁ、奈々子」
 
 視線を奈々子に向けると、奈々子はふふっと笑ってうなずいて、
 
「うんうんっ。諒クン、そういうことだからっ」
 
 おい、『そういうこと』って、なんか変に誤解されたらどうすんだよっ?
 ……とか思ったけど、奈々子の『天然発言』は高橋もよく理解してる(なんせ、本物の『兄』なわけだから)。
 
 高橋はフッと穏やかに笑って、希さんに視線を向けた後、なぁんか意味ありげに笑ってうなずいて、道坂さんとともに駐車場へと歩いていった。
 
「……なんなんだ? いまの妙な『笑み』は?」
 
 ボクが独り言のように呟くと、希さんがククッと笑った。
 
「さぁーね。高橋はさ、ちょっと人とズレてるとこあるし、別に意味ナンてないんじゃナイ?」
 
 言いながら、希さんは自販機の前に立った。
 ピッ……ガタンッ!!
 希さんは自販機からミネラルウォーターを取り出して、
 
「そろそろボクも帰るよ。あんまりウチの子猫を待たせておくワケにもいかナイしね」
「あ、希さん、子猫ちゃんたちによろしく伝えておいてよ」
「うん? あぁ、リョーカイ」
 
 希さんはうなずいて、駐車場へと向かおうとした。
 
「あ……、希クンっ!!」
 
 ボクの隣にいた奈々子が、希さんに向かって声をかけた。
 
 ……なに? 希『クン』!?
 希さんだって、奈々子より年上(ひとつだけど)だぞ?
 なんで希『にぃ』とかじゃないんだよっ!?
 奈々子の中では、希さんは『兄』じゃないってことだなっ? くっそー、なんか腹立つっ!!
 
 奈々子は、振り向いた希さんに向かって手を振りながら、天使のような笑顔で言った。
 
「希クン、ありがとーっ!!」
 
 言われた希さんは、ちらっとボクに視線をやった(くっ……わざとだろっ)あと、再び背を向けて、ミネラルウォーターのペットボトルを持った手を軽く上げ、駐車場へと消えていった。
 
「……奈々子」
「ん? 何?」
「今の……何? 『ありがとー』って」
 
 ボクが聞くと、奈々子はくりくりっと目を動かして、人差し指を唇にあてて、そしてふふっと笑った。
 
「んー……内緒っ」
 
 くっ……気になるっ!! ……けど、突っ込んでまた泣かれても……なぁ。
 
「そ、そうか。……じゃぁ、オレたちも行くか? 今日は車で来たから、おまえの行きたいところに連れてってやるよ」
 
 ボクがそう言うと奈々子は、ぱぁぁっと目を輝かせた。
 
「ホント? じゃぁね、あたしね――――――」
 
 
 ついこの間まで、こいつは『ボクの妹』だったけど。
 いつか絶対、近いうちに、『オレの彼女』にしてみせる。
 
 ボクは……いや、オレは必ず、おまえを振り向かせてみせるからなっ。
 ―――――覚悟しとけよっ、奈々子!!

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