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05 寝言シタゴコロ。

 
「ん……うぅん……背中イタイ……」
 
 ふと、目が覚めると、あたしは布団から落ちていた。
 盟にぃと諒クンとの話し合いで、三つの布団をくっつけて並べた端っこで、あたしは眠ることになったんだけど。
 あたしと一緒に使うハズだった肌掛け布団、隣で寝ている諒クンがドクセンしちゃってるし。
 この部屋、エアコン効きすぎてるから、サムイっちゅーねん……。
 
 少しずつ暗闇に目が慣れてきて、離れたところも見えるようになってきた。
 ……ん? 諒クンの隣は、直にぃだったハズなのに、いない。
 
 よーく見ると、あたしとは反対側の端っこに、小さく丸くなって眠っている直にぃがいた。
 そのすぐ隣(布団の端っこじゃない側ね)に、盟にぃが眠ってる。
 諒クンと盟にぃの間には、いい感じにスペースが空いてて。
 しかも、盟にぃが使ってるハズの肌掛け布団が、盟にぃの足元に追いやられちゃってる。
 
 これは、チャンスっ!!
 
 あたしは、迷うことなく飛び起きて、盟にぃの足元の肌掛け布団をつかんだ。
 諒クンと盟にぃの間に空いてるスペースにバサッと広げて。
 当然、そこにもぐりこんで……あぁ、あったかいっ。
 そや、盟にぃも、サムイやろ? 肌掛け布団、一緒に使うたらええんちゃう?
 
「ん……んん…………」
 
 あたしが軽く布団を掛けると、盟にぃはカラダをもぞもぞっとして。
 あたしの方へと寝返りをうったその拍子に。
 あたしの手に、盟にぃの手が、ちょんっと触れて。
 
 ――――えっ、えぇっ!?
 
 あたしの手は、盟にぃの両手に、ぎゅうぅ……っと。
 包み込まれてしまった。
 
 やっ……ちょぉ、どないしようっ!?
 アカンっ!! ドキドキしすぎて、鼻血出そう――――。
 
「………………さん、…………てよ」
 
 ……ん? いまの、何?
 あ、もしかして、盟にぃの……寝言?
 
「……ヒジカタさん、教科書……貸してよ」
 
 やっぱり、盟にぃの寝言や。
 ……それにしても、結構ハッキリした寝言やなぁ。
 
「お礼に、きょうの学食……奢るからさぁ。……そんな、遠慮しなくても……いいじゃん」
 
 ……ガクショク? って、ガッコウで売ってる、給食みたいなヤツやろ? (少女マンガで見たことある)。
 教科書貸してもろたくらいで、ゴハンおごるの?
 盟にぃってばやさしいんやなぁ……。
 
「……ねぇ、……ねぇってば、ヒジカタさん……」
 
 盟にぃは、それだけ呟いて、あたしの手をぎゅぅっと握ったまま、すうぅ~っと眠ってしまった。
 
 う~ん……『ヒジカタ』さんって、どんな人なんやろ?
 わかんないけど、盟にぃの寝顔がとっても楽しそうやから、きっと。
 とっても仲のいい友達……なんやろうなぁ……。
 
 
 
 
 
 
「――――乾杯っ!!」
 
 突然の盛り上がりに、ハッと気がつくと、……あっ、もう合コン始まってるしっ!!
 慌てて、周りの人とシャンパングラスでカンパイして、グイッと一気に飲み干した。
 
「おぉっ、なーこちゃん、いい飲みっぷりだね」
 
 近くにいた芸人さんが言うと、みんなあたしにチュウモク注目する。
 
「えぇっ? なーこちゃんって、もうお酒飲める歳なん?」
「伊藤サン、あたし、もう24なんっすよ」
「マジでっ? 全然、見えへんっ。18、9くらいかと思うとったわ」
「そういえば、この間テレビで言うてた『彼氏』とはどうなったん?」
 
 ……いないっすよ、『彼氏』なんて。
セイジュン清純路線』は流行らないからって、ハタチでAndante結成した時から『フツーに年相応に男女コウサイしてますよ』と言うように、事務所から言われてるけど。
 
 あたし、『彼氏いない歴24年』っすよ。
 片想いだって、たったの一度だけ。
 もちろん、ゲンザイ進行形。
 ……ホントのコトを言っても、きっと誰も信じてくれないと思うけど。
 
「あぁ、あの『彼氏』とは、別れちゃったんっすよ」
「えぇ~? なんで?」
「だってね、ヒドイんっすよ。エッチの直前、イイ感じのときにトツゼン、『ゴメンっ!! 急用思い出したっ!!』って帰っちゃうの。サイテーだと思いません?」
「なんやそれっ!! 最低やわっ。なーこちゃんみたいな、かわいいコ目の前にして、そんなこと……一体、どんな男やっ!!」
 
 周りにいた芸人サンたちが、『サイテー男』について、なんやかんやと盛り上がる。
 
 ……ちなみに、この『サイテー男』、実は汐音の体験談。
 どんな男の人なのかまでは知らないけど、どうやら相当変わってる人みたい。
 しかも、その人、汐音の『彼氏』だったわけじゃないらしいんだけど。
 そんな『彼氏』でもない人と『エッチの直前、イイ感じ』なジョウキョウ状況になっちゃうなんて、正直、あたしにはよく分からない。
 
 ……っつーか。
 エッチどころか、キスだって。
 仕事でしか……したこと……ないし、あたし。
 
「なーこちゃん、飲みたいものあったら、とってくるけど、何がええかな?」
 
 芸人さんたちが身を乗り出して、笑顔で聞いてくれる。
 その笑顔、シタゴコロ下心・レベル2。『ちょっとでも仲良くなれたらええなぁ』。
 このくらいだと、ショージキ、安心・安全かな、って思うけど。
 
「あ、ありがとうございますっ。でも、大丈夫っすよ。あたし、このお店のバーテンさんと仲良しなんで、ちょっとアイサツしてきたいし」
 
 あたし、ニコッと『営業スマイル』。
 芸人さんたち、つられてデレデレっと笑う。
 
 最近、芸人さんもカッコイイ人多くなってきたけど。
 やっぱ、盟にぃの『さわやかスマイル』が一番カッコイイっしょ。
 
 あたしは『営業スマイル』のまま芸人さんたちに手を振って、お店のカウンターへと向かった。
 
 
 
 
「すんませーん!! いつものくださいっ!!」
 
 カウンターに、いつものバーテンさんがいるのを見つけて、あたしは、大声で叫んだ。
 
 だってさ、ほら、きょうは合コンだし? 周り、みんな盛り上がってるし?
 こんくらい大きな声出さないと、バーテンさんに聞こえないっしょ?
 
 あたしの声はちゃんと届いたようで、バーテンさんは軽く笑ってうなずいた(このバーテンさんの笑顔も、なかなかカッコイイんだよね。もちろん、盟にぃには及ばないけどっ)。
 
『いつもの』を作るためにバーテンさんがあたしから視線を外したのと、ほぼ同じタイミングで。
 今度はカウンターのところに立っていた男の人が、くるっと、あたしの方へと振り返った。
 
「な……なーこちゃん」
 
 ――うわぁ、盟にぃだっ。
 ついさっきまで盟にぃのこと考えてたから、もうもう、シンパク心拍数が一気に急上昇だよっ。
 
「あっ……、め……」
 
 やぁぁっ、違う違うっ!!
 落ち着いてってば、あたしっ!!
 ここで『盟にぃ』って呼んじゃ、ダメっしょっ!?
 
「……中川サン」
 
 あうぅ……。みんなの前で、『盟にぃ』って大声で呼びたいよぅ……。
 
 そうして心の中だけで泣いていると、盟にぃはクスッと笑って、
 
「小さな声なら大丈夫。みんな盛り上がってて、他の人の話なんて聞こえてないから、そんなに緊張しすぎなくても平気だよ」
 
 あぁ、やっぱり(諒クンと違って)盟にぃはやさしいなぁ。
 あたしが泣いてるとき、盟にぃはいつもこうして、笑顔であたしを安心させてくれる。
 
 ――――なんて、ホンワカしてる場合じゃない。
 あたしは慌てて、辺りを見回した。
 
 こんな、盟にぃとお話してて、デレデレしちゃってるところを他の人……特に、さっきあたしの気持ちを知られてしまった水谷サンに見られたら、たまったもんじゃないっすよ。マジで。
 
 誰にも見られてないことをカクニンして、ホッと一安心。
 カウンターにひじをついてあたしを見ている盟にぃの横に立って、バーテンさんがカクテルを作っているその手元をなんとなく眺めた。
 
「ここにはよく来るの?」
 
 盟にぃは、あたしの耳元に少し顔を寄せるようにして、小さな声で聞いた。
 
「えっ? なんで?」
「ほら、さっき、『いつものください』って」
「あ、うんっ。SHIOがね、『あんた、ぜったいに一人じゃたどり着けないから』って、何度か一緒に来たんだけど、忘れないようにって思って、昨日も来たよっ」
 
 あたしが言うと、盟にぃは一度あたしのいない側へと顔を向けて、ぶふっと笑った後。
 再びあたしを見つめて、ニッと笑った。
 
「……相変わらずの方向音痴なんだ?」
「うっ…………」
 
 盟にぃ、それってもしかして、いやいや、もしかしなくってもっ。
『あの時』のことだよねっ? そうだよねっ?
 
 自分の置かれたジョウキョウをハッキリと自覚した、甘くて切ない(?)夏の想い出。
『奈々子@小6迷子事件(in東京)』。
 
 ああぁぁああぁ……穴があったら迷わず入って、内側からトビラ閉めて、100個くらいカギかけたいっ!!
 
 
 
 

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