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14 危険人物アヤミ。

 
「……じゃぁ、なーこさんはいま、お付き合いされてる方はいないんですね?」
「そーなんっすよ。だから最近、仕事のあとが超つまんなくて。あ、誰かいいヒト紹介してくださいよ」
 
『カエルのお店』の地下にある、ゲーノー人がたくさん集まる居酒屋。
 ほぼ満員に近い店内の、奥まったところにあるテーブル席。
 
 昨日バーテンさんが話していた『雑誌の記者やってるお友だち』のケンタさんと。
 テレビにも出たことがあるジャーナリスト』アヤミさんと。
 一緒に雑談しながら食事中。
 
 雑談、とはいっても、話がもりあがったら、それをイイ感じに記事にしちゃうかもなんだって。
 ハッキリ言って、プライベートじゃなくて仕事だよね、コレ。
 
 そうそう、このアヤミさんなんだけど、やっぱり見覚えがある気がする。
 昨日、『カエルのお店』のバーテンさんに写真見せてもらったときは気づかなかったんだけど。
 あたし、このアヤミさんに会ったことがあるんだと思う。
 テレビや雑誌で見たんじゃなくて、ね。
 
 なんでそう思うのかっていうと、ぶっちゃけ、ただのカンってやつ。
 でも、だけど、どこでどう会ったのか、どーしても思い出せないんだよね。
 プライベートじゃないと思うから(あたし、自慢じゃないけど、東京で『友だち』って呼べる人は汐音くらいしかいないし)、たぶん仕事で、だと思うんだけど。
 だって、アヤミさん、(あたしほどじゃないけど)すごくカワイイんだもん。
 モデルとかグラビアとか、そーいう仕事してたコト、あるんじゃないかな?
 
 アヤミさんは、カワイイ小花柄が施されたネイルの指先で、テーブルに置いたボイスレコーダーを軽くつついた。
 
「紹介、ですか。そうですねぇ……。あ、なーこさん、どんな感じの男性が好みのタイプなんですか?」
「好みっすか? うぅ~んと……」
 
 どっちかっていうと、細いかな? って感じで。
 背はあんまり高くなくて。
 サラッとした髪が、最近片側だけ長くて。
 さわやかな笑顔と、楽しいお話が大得意で。
 一言でいうなら、『子犬系』?
 
「どっちかっていうと、こう、ガシッとしてて、身長は、180センチ以上あって、短髪がツンツンに立ってるか、ツルツルのスキンヘッドで、笑ったりお話したりするのがニガテで。一言でいうなら、んーっと、……『ガテン系』?」
 
 あたしが言うと、ケンタさんとアヤミさんは顔を見合わせて、苦笑い。
 
「うぅーん……。残念ながら、僕の知り合いにはそういう系統のヤツはいないですね」
「わたしの周りにも、あんまりいないかな……」
 
 っつーか、紹介されても困るし。
 テキトーな話を続けながら、テーブルの向かいに座っている二人は居酒屋の料理を口に運んでいく。
 
 ――――『このコ、絶対ウソついてる。』
 
 ……え?
 あたし、思わずアヤミさんの顔をガン見してしまった。
 
「どうかしました?」
 
 あたしの視線に気づいて、アヤミさんはシーザーサラダを取り分ける手を止めた。
 
「や、あの……そう、そのネイル、カワイイっすね」
「あ、これ?」
 
 アヤミさんは一瞬だけ、迷惑そうに眉間にしわを寄せる。
 けど、すぐにうれしそうな笑顔を作って、指先を広げて見せた。
 
「わたし、最近ネイルアートにハマってて。今日はあまり時間なかったから、こんな簡単な柄にしてきちゃったんですけど」
「えーっ、これ、自分でやったんっすか? すごぉいっ!!」
「全然、簡単なんですよ。こう、ちょんちょんって乗せてくだけ」
「で、こんなにカワイイの? いいなぁ~~、あたし、不器用だから絶対できなぁい」
「大丈夫。誰にでもできますよ」
「マジで? えー、教えてくださいよっ。できるかなぁ、あたしにも」
 
 このヒト、すごくウサンクサイ。
 理由はわかんないけど、あたし、探られてる。
 こういうときは、ヘタに相手をシゲキしないほうがいい。
 
 諒クンだったら、きっと目から出るビームで相手を瞬殺するんだろうけど。
 
 
 
 
 
 トイレでちょっとだけメイクを直して戻ると、アヤミさんはいなくなっていた。
 
「すみません、急用ができたみたいで」
 
 ケンタさんは、申し訳なさそうに言う。
 
 ――やっぱり、ウサンクサイ。
 
『急用』って言ったって、帰る前にアイサツくらいするのがフツーっしょ?
 あたしがメイク直してたのって、ほんの2、3分。
 それも待てないような急用なんて、ある?
 あたし、よく『ジョウシキ常識がない』なんて言われるけど。
 これはちょっとヒジョウシキ非常識ってヤツなんじゃない?
 
「ケンタさんは、いいんっすか? 一緒に行かなくても」
「僕は、取材相手から彼女が聞き出した話をまとめて記事にするのが仕事ですから。もっとも、本職はコッチなんですけど」
 ケンタさんは、人差し指と親指で四角い枠を作った。
「カメラマン?」
「そうです」
「『カエルのお店』は?」
「……カエル?」
 
 あたし、お店の天井を指差した。
 
「昨日、あたしが帰るのとちょうど入れ違いでお仕事だったっしょ?」
「あぁ、バーテンの。あれはバイトでやってるんです。この仕事だけじゃ、食ってけないから」
「そうなんだ。ケンタさんって、いまいくつ?」
「27です。早生まれなんで、年明けて、3月で28に」
「あ、じゃぁ、一緒だ」
「え、一緒?」
「あたしも3月。3月の31日。あと、えっと……アニと同い年っすね。確か、今日が誕生日で28歳」
「なーこさん、お兄さんがいるんですか。どんなお兄さんなんですか?」
「んー……、やさしいけど、細かいコトうるさいっつーか。でも、最近は自分のカノジョのコトしか頭にないみたい」
 
 あたしが言うと、ケンタさんはウンウンとうなずいて、
 
「どこのウチも一緒ですね。僕にも姉が、一つ年上なんですけど、いまして。いつも僕の頭叩いてばかりの暴力女だと思ってたら、最近、男のトコに入り浸って、帰ってこないらしいんです」
「あたしのアニは、あたしのコトたたいたりしないけど」
「姉は真面目なだけが取り柄で、外泊なんて滅多にしなかったのに、今じゃぁ不良娘ですよ。そりゃぁ、僕だってほとんど家に帰らない不良息子ですけど」
 
 あたしのアニは元不良少年だけど……ってことは黙っておこうっと。
 
「相手の男がどんなヤツなのか、心配で心配で……」
「そーいうのって、たいていロクでもないオトコだったりするんだって。それか、ものすごいキケンなタイプとか」
「キケン……と言うと?」
「タップリ貢がせて、自分の都合のいいように使って、ウザくなったらソッコーで切って捨てちゃうの」
「うわ、最悪」
「ハンザイ的なあんなモノやこんなモノとか使われてたりして」
「犯罪的?」
「きっと、相手はコレっすよ、コレ」
 
 あたし、両手の指で、『8』と『9』と『3』を作った。
 
「なぁんて、そういう人もいるから気をつけろって、いっつも周りに言われてるんだけど――」
「うわぁああぁあぁあああっ!!!」
 
 突然、ケンタさんは頭を抱えて叫び出した。
 
「ねぇちゃんがっ。俺のねぇちゃんがヤクザにっ。もうお終いだぁぁあぁっ!!」
「や、っつーか、ただのジョウダン……」
「俺のねぇちゃん返せぇっ!! うわああぁっ!!」
 
 あーあ、ちょっとからかい過ぎちゃった……かな。
 
 
 
 
 
「だぁいじょうぶですって。ケンタさんのオネエサン、きっとすぐ帰ってくると思うし」
 
 ケンタさんが騒ぐから、お店中の視線が集中しちゃって。
 あまりにもハズカシくて、さっさとお店を出ようと。
 あたしはケンタさんをなだめながら、個室の並ぶ廊下を歩いていた。
 
 うーん……。もしかしたら、ちょっと違うのかもしれない。
 あたしの、「諒クンが好き」の『好き』と。
 ケンタさんの、「ねぇちゃんが好き」の『好き』と。
 
 タンジュンに『好き』の大きさが違うのかもしれないし。
 フクザツに、『好き』のタイプが違うのかもしれないし。
 
 ズバッと聞いてみようかなぁ、とも思ったけど、聞いたってどうにもなんないし。
『あ、世の中にはそーいうヒトもいるんだぁ』って、たぶんそんなカンジ。
 
「泣かない、泣かないっ。オトコもオンナも、大事なのは『笑顔』っすよ。ハイ、笑ってっ」
 
 あたし、後ろをとぼとぼと歩くケンタさんに、振り返って『営業スマイル』。
 ――を、作ったシュンカン。
 すぐそばの個室の戸がシュッと勢いよく開いて、部屋の中から何かが飛び出してきた。
 
「わっ…………きゃぁっっ!?」
 
 ――――ドンッ!!!
 ぶつかったのは、どこかで見覚えのある小さなオッサン……じゃなくてオトコの人。
 
「……あれぇ、なーこちゃん?」
 
 小さなオトコの人の後ろから別のオトコの人の声がした。
 すごくよく知ってる人だった。
 
「阿部サン、(……ってことは、この小さなオッサン……じゃなくてオトコの人は)花本サン?」
 
 阿部サンと花本サンは、あたしの『ゲーノー界のオニイサン』。
 Andanteが生まれたオーディション番組の司会をしてたのが、この阿部サンと花本サン二人がコンビ組んでる『コンストラクション』(何度も言うけど、略して『コンスト』ね)。
 
 デビュー後も、コンストさんがレギュラーしてるいろんな番組に呼んでもらったりして、すごくお世話になってる。
 最近は歌とかドラマとかで忙しくなってたから、あたしがコンストさんに会うのは、割と久しぶりなカンジ。
 
「こんなとこでお会いするなんて、偶然っすね」
「そやね。相変わらず、元気にしてる?」
「は~い、おかげさまで」
「……あれ、そちらの男性は?」
 
 阿部サンは、あたしの後ろにいるケンタさんに視線を向けた。
 ケンタさんは……あ、泣いてない。よかった、もう落ち着いてる。
 
「いま、雑誌の取材受けてて、昨日合コンで会ったんっすけど」
「……は? 合コン? ……で、取材?」
「そうだ。花本サン、前におごってくれるって言ってたじゃないっすか。きょう、これからごちそうしてくださいよっ」
 
 あたしが聞くと、花本サンはアッと何かを思い出したように表情を変えて、
 
「別に、構わへんけど、オレはとりあえず今急いでんねんっ!!」
 
 と、さっき飛び出してきた部屋の、なぜか隣の部屋の戸をスパーンッと開けて、……入ってっちゃった。
 
「なーこちゃん、ごめんな。いま、ちょっと連れがおんねん。たぶん、花本サンが聞いてくれると思うわ。一緒してもいいかって」
「え? あ、そうなんっすか? それなら、また今度でもよかったのに」
「ボクらは、全然構へんよ。一応、用事は済んだとこやし。あの二人もたぶん、大丈夫やと思うで?」
 
 ……『あの二人』?
 ただのカンなんだけど、マジでイヤな予感――――。
 
「誰なんっすか?一緒にいるの……」
「道坂靖子サンとね、『Hinata』の高橋諒クンなんやけど。会うたこと、ある?」
 
 っつーか、『会ったことある』もなにも、その人たち。
 あたしの実のアニと、ギリのオネーサン(予定)ですけど――――っ!!
 
 
 
 

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