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17 朝マデズット。

 
 ……って。
 さっきは『朝まで』と聞いて、完全にテンパッてたけど。
 よくよく、よぉーく考えてみたら、別にどうってことない。
 
 盟にぃにとっては、あたしは『妹』でしかないわけで。
 それって、例えば諒クンと一緒にいるのと同じなわけで。
 あたしにとっては、もちろん同じじゃないわけなんだけど。
 
「この間ね、諒クンの家にいたら、道坂サンが来てね」
「この間? あいつ、ずっと無人島だっただろ。……あ、先週のウタステで戻ってきたとき?」
「んーん、もっと前。一ヶ月くらい前かな。諒クンね、『腹が減ったから何かくれ』って電話してきて、ウチにあったカップラーメンとか、レトルトのカレーとか、持ってってあげたの」
「『それくらい、自分で買ってこい』って言えばいいじゃん」
「風邪引いてたんだって」
「あー……それって、PV撮ったときのことか。それで?」
「うん。でね、でもね、道坂サンが来たとき、諒クンはシャワー浴びてて。道坂サンが来るって、諒クン知らなかったみたいで、道坂サンもカサ取りにきただけみたいだし、あたし、諒クンに道坂サンが来たこと言わなかったの。だって、言ったらシャワーの途中で出てきて、また風邪引くよね、って思って」
「あぁ、あり得るな、それ」
「でしょ? 道坂サンって、カワイイし」
「……え、誰がカワイイって?」
「道坂サン」
「道坂さんの、どこがカワイイって?」
「こんな顔」
 
 あたし、道坂サンがフキゲンなときのマネして、口を軽く『への字』に曲げた。
 
「いや……、それ、道坂さんがやっても別にカワイクはないだろ」
「諒クンは、ゼッタイこの顔にメロメロなんだと思うんだけど」
 
 あたしが言うと、腕組みした盟にぃは、うぅ~~ん……と考えて、
 
「やっぱ、ちょっと信じらんないんだけど。高橋が、あの道坂さんと付き合ってるなんて」
「そうかなぁ。だって、さっき居酒屋で会ったときも、あたしがいるって気づくまで、道坂サンにデレデレだったよ?」
「……マジで?」
「うん。諒クンはね、道坂サンと一緒にいるとき、ホントにホントに、幸せそうにしてるんだよっ。だってね、見えるんだもん」
「見える? 何が?」
「んっとね、磁石」
「磁石?」
「うん。あの二人はね、磁石だから、ピタッてくっつくの。諒クンがSキョクで、道坂サンが、……Mキョク」
 
 盟にぃはガクッとうなだれた。
 
「あれ、違った? 道坂サンがSキョクで、諒クンがMキョク?」
「奈々子……違うのはそこじゃないよ。磁石はS極とN極」
「え、あ、そうだっけ」
 
 ポリポリと頭をかくあたしに、盟にぃは目を細めて笑った。
 
「……ね、盟にぃ」
「ん?」
 
 あたし、盟にぃの肩に自分の頭を乗っけた。
 何も言わずに、コツンと。
 
「……奈々子?」
 
 ゆっくり目を閉じる。
 眠ったフリ。
 
「こんなとこで寝たら、風邪引くだろ」
 
 これくらい大丈夫だよ、盟にぃ。
 あたし、カラダはジョウブなの。
 
「疲れた?」
 
 ん……疲れてないよ。
 ただ、こうして盟にぃと一緒にいられるのがウレシイだけ。
 
「そうだよな。おまえ頑張ってるもんな」
 
 うん。頑張ってるよ。
 頑張って、ここまで来たよ。
 
 だから、いまは少しだけ、ごほうびもらうね。
 これからも頑張るから。
 
 もっと盟にぃのそばにいられるように、頑張るから。
 見ててね、盟にぃ。
 
『妹』でもいいから。
 ね、盟にぃ……。
 
 
 
 
「…………なこ……おい、起きろって、奈々子」
 
 名前を呼ばれて、パチッと目を開けると。
 盟にぃが、あたしの顔を見つめていた。
 
「あ、やっと起きた」
 
 言いながら、盟にぃは半分呆れたように笑う。
 
「ん……あれ、あたし、もしかして、ちょっと寝てた?」
「『ちょっと』じゃないよ。もう朝だよ。8時半」
「えぇっ……」
 
 そんなぁ。せっかくの『ごほうびタイム』を寝ちゃってたなんてっ。
 もったいないっ。もったいない過ぎるっ。
 
「しっかし、まぁ、よく眠れたみたいだな。最近、忙しくてあまり寝てなかったんじゃないの?」
「んー……そうでもないけど……あっ!!」
「な、なんだ?」
「あぁ……どうしよう? せっかくメイク直したのに、寝ちゃったよぉ」
「奈々子ぉ……家に帰ってからでいいんじゃないか? いまここで直したって、家に帰ったらどうせ風呂入ったりするだろ? あんまり塗って落として……してると、肌に悪いぞ」
「あ、うん……そっか。そうだねっ。うん、そうするっ」
 
 あたしが笑ってうなずくと、盟にぃは軽くため息をついて、少しだけアイマイに笑った。
 けど、すぐに真顔になって、
 
「……あのさぁ、奈々子」
「ん? なに?」
「ボクは……奈々子のこと……好きだよ。そうやって、笑ってる奈々子が好きなんだ。だから……もう、昨日みたいに、泣くなよ?」
 
 言いながら、盟にぃはあたしの頭を軽くなでた。
 小さなコドモをあやすみたいに。
 
 ……わかってる。
 
 あたし、とびっきりの笑顔を作って、答えた。
 
「うんっ。あたしも、盟にぃのこと、好きだよっ。だから、泣かないっ」
 
 
 
 
 
 
 あたしは、盟にぃがお店の人にお願いして呼んでもらったタクシーに揺られて、マンションの近くで降りた。
 もう通勤通学の時間も過ぎてて、あまり人通りの多くない道を、時々空を見上げながらテコテコと歩く。
 
「……あ、白い雲」
 
 ゼッコウの洗濯日和。
 キホンテキに不器用で、家事ゼンパン全般はニガテなあたしだけど。
 洗濯だけは、ちゃんとそれなりにできる。
 小学6年の夏休みに、盟にぃにしっかり教えてもらったから。
 
「よぉっし。きょうはキアイ気合入れて洗濯しよっかな」
 
 空はスコーンっと青いし。
 盟にぃに『ごほうび』ももらったし(寝ちゃってたけど)。
 うん。これからも、今までよりもっと頑張れそうっ。
 
「――――奈々子?」
 
 すれ違った男の人に呼びとめられ、振り向く。
 そこにいたのは、あたしと血がつながっているアニ、諒クンだった。
 
「……奈々子、昨日のあの、おまえと一緒にいた男やけどな、あれ、気をつけろ」
 
 昨日一緒にいた?
 ……あ、雑誌の記者(兼、バーテン。本業はカメラマン)のケンタさんのことかな。
 
「ん、なんで?」
「あいつ、カメラマンや。前に、週刊誌にでっちあげの記事載せられたことあって……」
「あぁ、あのときの」
 
 そうそう、二年くらい前に、あった。
 あたしと同じくらいの歳の女のコと、夜道を一緒に歩いてるトコロを撮られたみたい。
 
「おまえ、絶対マークされてるから」
「あ、だから、昨日様子がおかしかったんだ」
「様子って……誰の?」
「諒クンの。ずぅ~~~~~っと、黙ってたし、こんな顔してたよ」
 
 あたし、指で自分のマユゲをぎゅっと寄せるマネ。
 諒クンは、「……そんなに?」とちょっとビックリした様子。
 
 ……ところで。
 昨日の夜はデレデレ→フキゲンだった諒クンだけど、今日の朝はなんだか元気がないみたい。
 話を聞いてみると、昨日の夜、道坂サンと一緒に帰ったときにプロポーズをするつもりだったけど、できなかったんだって。
 
「言わなかったの?」
「…………というか、言える状況じゃなくなったから」
「ケンカでも……したの?」
「ケンカ……。うん……。ケンカとは言え……なくもないか……。最近仕事が忙しくて、疲れてるんとちがうかな」
 
 そう言って、諒クンはため息をつく。
 
 ――――『どうして、見えなくなったんだろう。あんなに強くてキレイな光だったのに』
 
 あぁ、そっか。だから元気がないんだ。
 諒クンのトクギ。『自分の人生に関わる人から光が見える』こと。
 諒クンにとって大切な道坂サンからもそのトクギで見えてた光が、見えなくなってたってコト、かな。
 ……それって、イチダイジ一大事じゃない!?
 
「今日はヒマなんだ?」
「ん……まぁ、とくに予定はないけれど」
「これから、実家行かない? あたしも、今日はオフなんだよ」
「――――はぁ? 実家?」
「うんうん。最近、あまり帰ってないでしょ?」
 
 あたしからの『実家行きプラン』に、思いっきり乗り気じゃない諒クン。
 だけど、強引にナットクさせた。
 
 困ったときは、『センパイ』に相談するのがいいと思う。
 あたしと諒クンのトクギの両方を、自由ジザイにコントロールして使える『大センパイ』に。
 
 ……洗濯は(そんなにたくさんないハズだし)東京へ戻ってからに予定ヘンコウっ。
 
 
 
 
 
 

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