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19 話題ヅクリ。

 
 
 大阪から帰ってきて、一週間。
 年明けからのドラマやツアーの打ち合わせで大忙しのあたしに、大ニュースは突然やってきた。
 知らせてくれたのは、あたしの大事な片割れの、汐音。
 
 ドラマの撮影が始まる前の、ほんのちょっとの時間。
 テレビ局近くの公園のベンチで、汐音と二人でパンを食べながらおしゃべりするのが、最近の日課なんだけど。
 
「どういうコトよ、コレはっ!?」
 
 汐音は、ベンチに座って待っていたあたしの目の前に、新聞を突き付けた。
 あたし、その新聞を手に取って、一番大きな見出しの文字を声に出して読んでみた。
 
「……『Hinata高橋諒とAndanteなーこ、熱愛発覚!』」
 
 ――――ネツアイ!?
 
「なんで、あたしと諒クンが『ネツアイ』なのっ!?」
「それはこっちが聞いてるのよ。奈々子は中川さんのコトが好きで、芸能界に入ったんじゃなかったの!?」
 
 腕組みした汐音は、怖い顔してあたしを睨みつける。
 
「……え、汐音、なんで怒ってんの?」
「そりゃ、怒るわよ。この間のウタステの時、中川さんと目が合ったってだけでハシャいでたクセに、裏では高橋くんと付き合ってたってわけ?」
「何言ってんの? 意味わかんない。だから、なんで、あたしと諒クンが付き合ってるコトになってんの?」
「じゃぁ、この写真はどう説明するの?」
「コレ? この間、一緒に実家に行ったときのだと思うけど」
「あのね、奈々子。『一緒に実家に行く』って、意味分かってる?」
「あ、うん。あたしも、ちょっとキケンかなぁ? って思ったんだけどね、諒クンも悩んでるみたいだったし。あとは、家族ダンラン? 5、6年ブリだって」
「……家族団らん?」
「うん。おいしかったよ、母さんのお好み焼き」
「ちょ、ちょっと待って」
 
 腕組みをしたまま目を閉じて、うぅ~~ん……と考えた汐音は、やがて、おそるおそるなカンジで、口を開いた。
 
「まさか、とは思うけど、奈々子の『芸能界で仕事してるお兄さん』って、……高橋くん?」
「そうだよ。……あれ、言ってなかった?」
「聞いてない」
「気づかなかった?」
「だって、共通点がどこにも……」
「汐音、あたしの苗字、言ってみて」
「奈々子の苗字? って、えぇっと、高橋……あっ」
 
 ……やっと、わかってくれたみたい。
 
「苗字が同じなんて、気づかなかった。特別珍しい苗字でもないし」
 
 言いながら、汐音はあたしの隣にストンと座って、茶色の紙袋の中からパンを一つ取り出した。
 
「あ、加藤堂のパンだ」
「食べる?」
「うん。あたし、加藤堂のパン、大好きっ」
 
 二人でパンを食べながら、いつもどおりにおしゃべりしていると。
 
「あら、二人揃って朝食?」
 
 超カワイイお姉さんに声かけられた。
 ……と思ったら、水谷サンだ。
 あたしと汐音は、慌てて立ちあがってゴアイサツ。
 やさしく笑った水谷サンは、あたしたちが座っていたベンチに目を向けた。
 
「ねぇ、これ、びっくりしたわ」
 
 そう言いながら水谷サンが手に取ったのは、加藤堂の袋の横に置いておいた、新聞。
 ……あたしと諒クンの『ネツアイ記事』。
 
「あ、あの、水谷サン、それは――」
 
 ちょっと待って。
 あたし、この記事のコト、水谷サンにどう説明すればいいの?
『諒クンは、あたしのアニなんです』って?
 
「それなら、そうと言ってくれればよかったのに。あなたも演技が上手いわね。中川くんのコトが好きだ、なんて」
 
『あたしは、諒クンの妹なんです』って?
 ――言ったら、どうなるの?
 
「完全に騙されたわ。あなたが本気で中川くんのコト好きなんだと思って、協力したこのわたしがバカみたいじゃない」
 
 水谷サンは、笑顔だ。
 やさしい笑顔。
 
 ――――『わたし、あなたみたいなコ、ダイキライ』
 
「それとも、二股狙ってる? あなたなら、Hinataの一人や二人、楽勝よね。なんなら、樋口くんも、三人まとめて――――」
「あのっ、水谷さんっ! それ、話題作りなんですっ!!」
 
 水谷サンの話してる途中で叫んだのは、汐音だった。
 
「……話題作り?」
「そうなんです。わたしたち、年明けからドラマやらせてもらうんですけど、正直、こう……インパクトに欠けるっていうか。それで、ウチの事務所の社長がハギーズの社長と親しいらしくて、相談してもらったら、その……高橋くんと『熱愛』ってことでどうかって。ちょうど、向こうも来年映画が公開予定で、宣伝に使える何かが欲しかったみたいで。ね、なーこ」
 
 汐音に背中を軽く叩かれる。
 あたし、戸惑いながらうなずいた。
 水谷サンは、あたしと汐音を疑いのマナザシで見つめる。
 
「……ホントに?」
「本当です。事務所には『話題作り』ってことは口止めされてるんですけど、水谷さんに誤解されたままだと、なーこが辛いかなって。だから、あの……このコトはヒミツにしといてくださいね」
 
 汐音は両手を顔の前で合わせて、お願いしますっのポーズ。
 水谷サンはしばらく考えて、……仕方ないな、って感じに笑った。
 
「ん……分かったわ。SHIOちゃんがそう言うなら」
「よかったぁ。水谷さんなら、分かってくれるって思ってましたっ。っていうか、水谷さんだって、ホントに、なーこが二股掛けるようなコだなんて、思ってないでしょう?」
「そっ、そりゃあ、もちろん」
「ですよねーっ。あ、そうそうっ。高橋くんって、こういうなーこみたいな年下のかわいい感じのタイプより、どっちかというと、知的な年上のお姉さんが好きだったと思いますよ。たとえば、そう、水谷さんみたいな」
「え、あら、そう? SHIOちゃん、なんで高橋くんのこと、よく知ってるの?」
 
 水谷サンの質問に、汐音は今まで見たことないような笑顔で答えた。
 
「高校の同級生で、友だちなんです。昔、高橋くんが、共演する水谷さんのことよく話してて、それを聞いて、『水谷さんって素敵な人だなぁ。会ってみたいなぁ』って思ったのが、わたしが芸能界目指すキッカケなんですよ、実は」
 
 
 
 
 
 
 
「はぁ……もう、緊張したっ」
 
 水谷サンがスキップしながら公園を出ていくのを見ていた汐音は、そう言ってベンチに座り込んだ。
 
「……ね、汐音。今の話、ホント?」
「どの話?」
「えっと……水谷サンに憧れてゲーノー界目指した、っての」
「嘘よ。芸能界に入るまで、水谷さんのこと、よく知らなかったし。それに、高橋くんから聞いてたってのも、嘘。仕事の話なんて滅多にしなかったわ」
「あ、じゃあ、諒クンの同級生だったってのは?」
「それは本当。高橋くんから聞いてないの?」
「聞いてないよ。……あっ、もしかして、あたしの写真集持ってた友だちって、諒クン?」
「そっ、そうだけど」
「なぁんだ。それ、あたしがあげたヤツだよ。売れたんじゃなかっ……ああぁああぁっ!!」
「なっ、何よ?」
 
 思い出したっ!! 思い出したっ!! 思い出したっ!!
 
「あの人だっ! オーディションのとき、あたしのアトマイザー投げた人っ! あれ、アヤミさんだっ!!」
「アヤミ? ……って、オガワアヤミ?」
「あ、そんな名前なんだ。汐音、知ってるの?」
「二年くらい前に、高橋くんと一緒に写真撮られたコ。あのコも同じ学校なの。確か、奈々子と同い年だから、わたしや高橋くんが高等部のとき、向こうは中等部ね」
「そっか、そうなんだぁ。なんか、どっかで見たことあるって思ったんだよね」
「オガワアヤミを?」
「うん。この間、雑誌の取材したいって。テレビにも出たことがあるジャーナリストなんだって。ネイルにハマってるって言ってて、ちょっとだけど教えてもらったの。みてみて、朝、やってみたんだけど」
 
 あたし、左手の小指に描いたローズピンクの小花を汐音に見せた。
 
「……何これ。鼻血でも付いてるんじゃないの?」
 
 ……がっくし。自信あったのに。
 
「汐音」
「ん?」
「汐音も、……嫌いって思った?」
「……んん?」
「あたしが、諒クンと付き合ってるかもって、……盟にぃのことが好きって言ってたのにって、怒ってたし。……嫌いって、思った?」
 
 水谷サンもアヤミさんも、心の中ではあたしのコト良く思ってなかった。
 じゃぁ、汐音は? って不安になる。
 いつも、知りたくないコトは聞こえてくるのに、ホントに知りたいコトは全然聞こえてこない。
 
 あたしが聞くと、ちょっとだけ考えた汐音はぶふふっと笑った。
 
「嫌いになんて、なってないよ。怒ってたのは、中川さんから高橋くんに心変わりしたんだったら、そう言って欲しかったなって、それだけ。だいたい、奈々子のこと嫌いになってたら、加藤堂のパンなんて買って来ないよ」
「汐音……そんなにあたしのこと、好きだったなんて……」
「いや、好きとは言ってないし。単純に、奈々子は敵に回したくないから、味方になってるだけよ」
「盟にぃのこと好きになったら、汐音でも敵だよ」
「大丈夫。それはないから。悪いけど、中川さんってわたしのタイプじゃないし」
「じゃ、大丈夫だね。あたしも、直にぃはタイプじゃないから」
 
 
 
 
 

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