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25 重大ハッピョウ。

 
 ばばーんっ!! と、やってきましたっ。クリスマスイブ!!
 年明けから放送のドラマを収録してるんだけど、もうなんだか今日はゼッコウチョウ絶好調
 いつもはたくさん出しちゃうNGも、きょうはまだ二回しか出してないから、周りの共演者やスタッフがビックリしてる。
 もちろん、お家でしっかり眠ってるから、メイクのノリもカンペキ。
 
 ……え? 胃? ぜーんぜん痛くないよっ。
 いまなら、焼肉とカレーとラーメンとオムライスとトンカツとケーキ、全部食べてもきっと大丈夫な気がする。
 
 あ、ケーキと言えば、予約してたクリスマスケーキ。
 やっぱ、もったいないし、と思って、このテレビ局に来る前にケーキ屋さんに寄って、取ってきちゃった。
 収録が終わったら、スタジオの隅っこか楽屋で、汐音と食べるつもり。
 
 イブは一緒にケーキ食べてくれるって、盟にぃが言ってたけど、あれはあたしを元気づけるために言ってくれたコトだってわかってるし。
 もし、ホントに盟にぃと一緒にケーキ食べるコトになっても、大丈夫。
 ホールで3個くらい、ヨユウでいけそう。
 
 
 そんなワケで、サクサク収録していると。
 一人のスタッフが、あたしのところへとやってきた。
 話を聞いてみると、あたしを探してる人がいるんだって。
 あたし、そのスタッフに聞いた。
 
「誰なんっすか? あたしを探してる人って」
 
 あたしのファン? んー、まぁ、サインと写真くらいだったら、全然おっけーだけど?
 
「あの……中川さんです。Hinataの」
 
 それを早く言ってよーっ!!
 
 
 
 
「め……中川サン、どうしたんっすか?」
 
 スタジオを出たところの廊下で待ってた盟にぃ。
 あたしが聞くと、盟にぃは真顔であたしの腕をガシッと掴んだ。
 
「奈々子、落ち着いて聞いてくれよ。いま、ボクらが出てる生放送のスタジオで、大変なことが起きてるんだ」
「……タイヘンなコト?」
「そうなんだ。この間、奈々子が、『道坂さんに嫌われてる』って言ってたろ? その理由が分かった。あいつ……高橋のヤツ、おまえとの関係を道坂さんに言ってなかったんだ。だから、道坂さん、おまえが高橋の『恋人』なんだって、勘違いしてる」
「あ……え? ホントに……? 諒クン、言ってなかったの……?」
 
 この間、希クンが言ってた通りだ。
 っつーか、ちょっと……マジで信じらんない。
 
 そりゃぁ、あの諒クンのことだからね。
 三年付き合ってて道坂サンの誕生日どころか年齢も知らなかった、諒クンだからね。
『いま世間で超大人気のアイドルユニットAndanteのなーこは、自分の妹だ』って説明してなかったとしても。
 フシギじゃない……わけないしっ!!
 
 じゃぁ、っつーことは、えぇっと……そうだ。
 あたし、道坂サンに、何て言った?
 
 トーク番組で共演した後の帰り支度のとき、道坂サンの耳元で、
『……諒クンは、あたしのものだから』
 
 で、その日の夕方。
 諒クンの部屋に道坂サンがカサを取りに来て、玄関開けたのは、あたしで。
 ……うわぁ、もしかして、すっごい悪いコトしたんじゃない?
 
 あたし、諒クンには『新聞の勧誘が来た』って言って、道坂サンを追い返して。
 そのとき、諒クンが何してたかって……寝汗を流すためにって、シャワーを……。
 
 コレって、あたしが『諒クンの妹』ってコト、知らなかったら。
 カレシの部屋に他の(サイコーにカワイイ)オンナのコがいて、カレシはシャワー浴びてて……って。
 そしたら、あとはもう、(あたしにはケイケンないような)アレなカンジだとかって思われたとしても。
 全然、フシギじゃ……ない。
 
 だから、道坂サンはあたしのコト、『キライ』って思ってたんだ。
 
「いま、高橋は道坂さんにプロポーズしにいってるはずだ。だけど、この間のおまえらの『熱愛報道』、あのままにしといたら、道坂さんがプロポーズにOKしたって、高橋は結婚できるはずがないだろ? 世間じゃ、高橋は『Andanteのなーこ』と付き合ってるってことになってるんだから」
「え? 盟にぃ、ゴメン、よく分からないんだけど……」
「……だからっ。んー……。いま、あの『熱愛報道』のせいで、『高橋となーこが付き合ってる』と世間に思われてる、っていうのは、分かるか?」
「……うん」
「その状態で、高橋が道坂さんと『結婚します』ってことになったら、じゃぁ『なーこは高橋の何なんだ?』ってことになるのは、分かるよな?」
「……うん」
「じゃぁ……、いま、おまえが何をしなきゃいけないか、分かるな?」
 
 ……うん。わかるよ。
 あたしが『高橋諒の妹』ってコト、言わなきゃいけない……って。
 だけど……。
 
「もう、おまえなら大丈夫だろ?」
 
 うつむくあたしに、盟にぃはやさしく言った。
 
「何も不安に感じることなんてない。奈々子が『高橋の妹』だろうとなんだろうと、おまえが『Andanteのなーこ』であり、『高橋奈々子』っていう一人のオンナであることには、変わりないはずだ。そうだろ?」
「盟にぃ…………」
「おまえの人気とか、CDの売り上げとか、落ちるようなことがあっても、ボクは……オレは、ちゃんとおまえのこと見てる。どんな結果になったって、オレはおまえの味方だし、責任とってやる。だから……安心しろよ」
 
 ほわっと、やさしく盟にぃに抱きしめられた。
 廊下を歩く人たちが、驚いてあたしたちを見てる。
 でも、全然気にならなかった。
 盟にぃの腕の中にいると、真っ白なわたあめに包まれてるみたい。
 
 ゆっくりと顔を上げたあたしは、盟にぃの目を見つめて、うなずいた。
 大丈夫。もう、怖くなんかない。
 
 
「……と、いうわけなんだけど」
 
 あたし、汐音にいまのジョウキョウ状況を全部話した。
 盟にぃには、廊下でちょっと待ってもらってる。
 腕組みして黙って聞いてた汐音は、深い深ぁ~いため息をついた。
 
「なにそれ。『どんな結果になっても、オレが責任とってやる』なんて、どうするつもりなのよ。奈々子と結婚して養ってやる覚悟でもあるって言うの?」
「そっ……そういう意味で言ってるわけじゃ、ないと思うけど」
「じゃぁ何? 落ちた売上や人気を穴埋めできるだけのプロデュース、してくれるの?」
「だから、そうじゃなくて。なんていうのかな……。あたしが不安にならないように、そう言ってくれてるんだと思うよ。いつも、そうだし」
「いつもテキトーなことばっかり言ってそうだもんね、中川さんって。何も言ってくれない人もイヤだけど、テキトーなことばかりの人も信用できないわ」
「もぉっ!! いまはそういう話じゃなくてっ!! 諒クンとのこと、ちゃんと説明してくるって、汐音にも話しておかなきゃって思ったのにっ!!」
「怖くないの? 仕事にどれだけ影響するか、とかって」
 
 汐音に聞かれて、あたし、自信タップリにうなずいた。
 
「もしかしたらね、いまのお仕事はなくなっちゃうことも、あるかもだけど。でも、よく考えたら、ホントのコトを話すだけだし、あたしはあたしなんだってことは、どうなっても変わらないんだよね」
 
『高橋 諒の妹』も、あたし。
『Andanteのなーこ』も、あたし。
 どっちがあっても、なくても、あたしは『高橋奈々子』なんだ、って。
 
 ……言ってる意味がわかんない?
 いいの。わかってもらえなくても。
 たぶん、きっと、盟にぃはわかってくれてると思うから。
 
「だから、汐音にもたくさんメイワクかけちゃうと思うけど、えぇっと……」
 
 何をどう言ったらいいのかわかんなくて、言葉を探していると。
 ずっと真顔で腕組みしてた汐音は、ニッといたずらっぽく顔をくずして笑った。
 
「わたしもね、この間からずっと考えてたの。いつかはこういう日が来るって。奈々子が納得して決心したなら、わたしは応援する。もし、これで仕事がなくなっても、それは単にわたしたちの実力がそれまでだったってことよ」
「汐音……」
「大丈夫よ。わたしは80歳過ぎても雑誌の表紙を飾れると思ってるし、奈々子はハリウッド女優になる日もそう遠くないよ、きっと」
「っつーか、ハリウッドって……それ、言い過ぎだよ、マジで」
 
 二人で顔を見合わせて、ぶふふっと笑った。
 
「ほら、さっさと行ってきなさいよ。早く収録終わらせないと、ケーキ食べる時間、なくなるわよっ」
「うんっ。じゃぁ、行ってくるねっ!!」
 
 
 
 
 ……と、まぁ、こんなカンジで。
 
 大好きな盟にぃが見守ってくれる中。
 生放送中のクリスマス特番のカメラの前で。
 あたしは、全国のみなさまに重大発表をしたってわけ。
 
「あたしは、高橋諒の……妹です」
 
 

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