07 マクデンバーガー

 ――――ゾクゾクッ!

「ん? 福山、どないしたん?」

 いきなり身を震わせたボクに、相方の徳川が怪訝な表情を見せた。

「いや……なんやろ。なんか急に背筋が凍ったっちゅうか、寒気が」
「風邪か?」
「分からん。疲れてんのかも」
「憑かれてんのとちゃう? キツネか何かに」
「……そっち? 嫌やわ」
「とりあえず、コレでも食って元気出しとき」

 徳川は自分のポテトを半分、ボクのトレイに乗せた。
 こんなジャンクフードばっかり食ってるから、身体壊すんやって。

 最近、徳川とボクでやらせてもらってるお笑いコンビ『プラタナス』は、東京で仕事させてもらうことがグッと増えた。
 それはもちろん、ありがたいことなんやけど、それに比例して、大阪と東京を移動する機会も当然、増えるわけで。
 新幹線の座席が食卓(場合によっては寝床も兼ねる)……なんて、しょっちゅうや。

 芸人デビューする前から続けてる、このハンバーガーショップでのネタ作りも、毎週レギュラーやってる生放送の前になんとか時間を作ってやってるけど。
 日頃の忙しさの反動からか、ついダラダラと飲み食いするだけで終わりがちになってしまう。

 いっそのこと、仕事の拠点も住まいも東京へ移してしまおうかと考えることも、ないこともないんやけど。
 まだまだ大阪でやり残してることがたくさんあるような気がして、決断でけへん。

 自分だけで決められる話でもないし、徳川とも何度も話し合いを、と思ってんのに、当の徳川は「まぁ、どっちでもええんちゃう?」と適当な返事を繰り返すばかり。
 これがもし、半年くらい前なら、是が非でも東京へ行ってたんやろうなぁ……。

「なぁ、福山」
「なんや」
「今日のゲストって、道坂さんやんか」
「……そうやな」
「オレ、あんまり道坂さんと喋ったことないねん。あの人って、どんな人?」
「どんな人……って言うても」
「一緒に週刊誌に撮られた仲やん、おまえと道坂さん」
「あのな、あれはコンストラクションの花本はなもとさんの、えげつない裏工作やで? だいたい、世間ではあの週刊誌ネタは無かったことになってるし」
「そりゃなぁ、あのモテない芸人の道坂さんがハギーズのアイドルと結婚となりゃ、おまえのことなんて消し飛んでしまうわな」
「消し飛ぶ……おまえなぁ、もうちょいマシな表現ないんかい」
「そういえば、福山、この間も道坂さんと話してたやろ? 確か、一ヶ月くらい前やったかな?」

 細かいことをよう覚えてんなぁ、コイツ。

 徳川の言うとおり、一ヶ月くらい前に、ボクは道坂さんと話をした。
 ……いや、正確には、道坂さんと結婚したハギーズのアイドル『高橋諒』――諒さんに伝えたいことがあって、伝言をお願いしたっちゅう感じや。

『トモに気をつけて』

 この伝言がちゃんと伝わっていれば、きっと諒さんはこの大阪に来てくれるはずや。
 ……っちゅうか、来てもらわんと、困る。
 万が一、何かが起きてしまったとき、ボクだけでは道坂さんを守れそうにない。

 取り越し苦労に終わる可能性も、もちろん、無くはない。
 そしたら、ボクが諒さんにどやされて、二、三発くらい小突かれて、道坂さんに呆れられて、そんで終わりや。

 それで済めば、ええんやけど。
 せやけど、『もしも……』のことがあったときが怖いねん。

 なんせ、相手が相手だけに――――。

「……ん?」

 パソコンの画面を眺めていた徳川が、何かに反応して身を乗り出した。

「噂をすればなんとやら、や。道坂さんの目撃情報、ツイッターに流れてるで」
「ツイッター?」
「ほれ、ここ。もう大阪に居てるみたいやな。んー……『○○駅近辺でHinataの高橋が道坂ハグしてるw あんなブサイクのどこがいいんだ? まじキモいww』やと」
「ああ!? 何が『キモい』んじゃ、ゴラァ! 道坂さんのこと何も知らんくせに適当書きやがってアホンダラァ!!」
「落ち着け、福山! オレのパソコンに何すんねんっ!」

 床に叩きつけようと振り上げたパソコンを、ギリギリの理性でもって、なんとかテーブルの上に置く。

「先輩芸人が悪く言われて腹立つのは分かるけどやな、こんなん、いちいち反応してたらキリがないで」

 そうや。落ち着こう。
 諒さんが大阪に来てくれてんのは分かったんや。
 もう、何の心配も要らん。

 欲を言ってしまえば、あんまり目立つようなことは、してほしくないんやけどな。
 こんな簡単に居場所が特定できてまうなんて、諒さんが居てくれてるとはいえ、やっぱり危険や。
 何事も起きずに済むなら、それに越したことはないんやし。

「おっと、また道坂さんたちの情報」

 と、徳川。

「『道頓堀のマクデンバーガー前なう。目の前にHinataの高橋くんいてちょーカッコイイ激ヤバw 隣に道坂靖子いてウザい』」
「え? ちょ、徳川、もういっぺん言うて?」
「なんやねん。また暴れるんやったら嫌や」
「暴れへんからっ」

 ボクの気迫にされた徳川は、しぶしぶとツイッターの文面を読み上げた。

「……『隣に道坂靖子いてウザい』」
「ちゃう。もういっこ前」
「『目の前にHinataの高橋くんいてちょーカッコイイ激ヤバw』」
「もっと前」
「『道頓堀のマクデンバーガー前なう』」
「道頓堀のマクデンバーガー」

 ゆっくりと店の名前を復唱してみる。
 ……それ、ボクらが今いるバーガーショップそのものズバリやないかいっ!

0