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05 カウントダウン。

 
 
「――――はい、えーっとですね、今年も残すところあとわずか5分ほどとなりましたけども」
 
 基本的にHinataでは仕切り役に回ることの多いボクだけど、この合同ライブでもやっぱりボクが司会進行してることが多い。
 年越しのカウントダウンまで、残りおよそ5分。
『『今年のまとめ』な感じでフリートーク』なんて指示が出てるんだけど……ここはやっぱり、ボクの腕の見せ所。
 ……とはいっても、毎年テキトーにしゃべって、ぐだぐだなままカウントダウンに突入しちゃうんだけどさ。
 
 そんなわけで、SEIKAとHinataの6人で大きなステージの真ん中に集まって、『ホントにここはライブ会場ですか? ホームパーティーじゃないんですよ?』的なトークの開始。
 
「みなさん、今年遣り残したことはないですか? あと5分ありますよ」
「あと5分で何ができるっつーんだよ」
 
 なおくんがツッコミをいれるけど、とりあえず無視。
 
坂田さかたさん、何かないっすか?」
「あー……今年はSEIKAの全国ツアーもやったし、CDも3枚出せたしね。むしろ遣り尽くした感じ」
「はい、無難なコメントありがとうございましたー。っていうか、あと5分でできることっすよ」
「あ、オレ、いま無性に年越しそば食いたいんだけど」
「おぉー、いいですね、宮崎みやざきさん。年越しそば。毎年、控え室に用意してくれてあるんですけどね、カップ麺ですけど。年が明けてからしか食えない、というね」
「そうそう。たまには年が明ける前に食いたいよね」
「あ、行ってきていいっすよ。宮崎さんがそば食ってる間に、年が明けちゃうと思いますけどね」
「じゃぁ、あと5分でできねーだろっ」
 
 直くんのツッコミも(ありがたいんだけど)再び無視。
 
「あぁあああぁ、ちょっと待ってっ! ボクも無性にそば食いたくなってきた!!」
「盟くんって、そば好きだよね。僕はうどん派なんだけど」
「あぁ、そんな高橋のために、うどんのカップ麺も用意されてるんだよね。しかも、わざわざ関西の味の」
「そう。スタッフさん、ありがとうございます」
 
 高橋は、ぺこりと頭を下げた。
 
「いいよね、『故郷の味』。そうそう、ボクの実家のすぐ近くに、長野じゃ結構有名なそば屋があるんだけど、『あさ田』って店なんだけど、そこのそばを取り寄せてくんないかなぁ。一度でいいから、大晦日に食べてみたい」
「地元にいるとき食ってたんじゃないの?」
「いやぁー、それがね、竹ノ原たけのはらさん。ウチ、年越しは両親の思い出の地、広島で過ごしてたんっすよ。だから、そこの店で年越しそば食ったことないの。ホントに、美味いんだよ。ボク、幼少の頃にね、その店のそばに惚れこんで、『そこの家の人になれば、毎日このそばが食える』と思って、そこの娘さんに、プロポーズしたくらい」
 
 ボクがそんなことを言うと、会場内に爆笑と悲鳴。
 
「……子どもんときの話ですよ、みなさん。ホント、小学校に入るか入らないかくらいの。でも、その女のコ、引っ越しちゃって。後にボクの親から聞いた話だと、その店は女のコのおばあちゃんのお店で、継ぐことになったのが、女のコから見たら伯父さんだった、という。まぁ、そんなね、『初恋の味は、そばの味』なんて……なんで今年の締めくくりが、こんなネタなんだ? って話」
「意外とさぁ、そういうのって、身近に相手の女のコがいたりするんじゃない?」
「うわぁー、宮崎さんってロマンチストですよねー。偶然、この東京で再会してたりとか? あり得ないっしょー」
「その女のコの名前とかは? 覚えてないの?」
「名前っすか? えーっと……『さーちゃん』って呼んでたことは覚えてるんだけど……」
「じゃぁ、『さ』から始まる名前だ。『さちこ』とか『さゆり』とか?」
「っていうか、もういいっすよー。こんなネタで年越したくないっしょー?」
「『さなえ』とか、……あと、『さやか』とか?」
 
 ……ん?
 ――――――『さやか』?
 
「おぉ? 中川、心当たりアリか? いま一瞬表情が変わったよな?」
 
 直くんから鋭いツッコミをくらってしまった。
 あぁもう、仕方ない。ここはひとつ、笑いを取ってやるか。
 
「……あぁっ!! そう、思い出したっ!! いたいた、身近にっ!! 『さ』から始まる人でしょ? さ……さ……『坂田さん』っ!!」
「えぇっ!? 俺っ!?」
 
 SEIKAの最年長、坂田さんは、自分に話が振られて驚いて……会場内は大爆笑。
 
「こんな近くにいたんだ。全然気づかなかったよ、『さーちゃん』っ!!」
「ちょっ……ちょっと待て、中川っ! おまえ、俺といくつ離れてると思ってるんだ?」
「えー? 確か、6つ?」
「だろ? おまえが小学校入るかどうかの頃ってことは、俺は中学入るかどうかくらいだろ? そんなことがあったなら、俺が覚えてるだろっ」
「っつーか、坂田さん長野出身じゃねーし、それ以前に女ですらねーって」
 
 坂田さんのボケと直くんの冷静なツッコミに、会場内は再び大爆笑。
 
「『さーちゃん』、ボクと一緒に、そば屋経営しようよっ」
「アホかっ!? 俺の実家はそば屋じゃないってっ!!」
「盟くん、残り20秒切ったよ」
「ん? あ、ホントだっ。えーっと、じゃぁ、カウントダウンいくぞーっ!! ……15――14――13……」
 
 そんな感じでぐだぐだなまま、毎年恒例のカウントダウンの号令をかけながら、ボクは全然別のことを考えてた。
 
『さやか』――『紗弥香』。
 
 いや……あり得ないだろ。
『さ』から始まる名前なんて、そこらじゅうにあふれてる。
 偶然とか以前の問題。ホントに、ただ単に、付き合ってる彼女の名前が『さ』から始まってたってだけのこと。
 
 第一、紗弥香が長野出身だとか、親の実家がそば屋だとか……付き合ってもう半年近く経つけど、そんな話聞いたことない。
 
 次に紗弥香に会ったときに確認してみようか……と一瞬考えて、すぐにそんな考えは無理矢理捨てた。
 
 近所の居酒屋で出会って、退屈しのぎに付き合い始めたオンナが偶然、名前も顔も忘れてしまった初恋の人でした、なんて。
 
 あり得ねぇーっての。
 そんな発想、ドラマの見過ぎか、少女マンガの読み過ぎなんだよ。バッカバカしい。
 
 
 
 
 ****
 
「……え? お父さん、いま……なんて?」
 
 テレビ画面の中の盟がカウントダウンを始める直前、父の口から思いもよらない言葉が出てきた。
 わたしは二つ目のみかんの皮をむく手を止めて、思わず父の顔を凝視して聞きなおした。
 
「『盟くんがいま話していた『そば屋の娘』って、おまえのことだな』と言ったんだが」
 
 事もなげに言った父は、熱いお茶をずずっとすすって、続けた。
 
「覚えてないか? おまえが小学校に上がる前まで住んでた、長野のばーさんとこの近所の、『中川盟』くん」
 
『――2――1―― A HAPPY NEW YEAR!! 今年もよろしくぅー!!』
 
「母さんが昔、言ってたぞ。おまえと盟くんの仲がいいから、冗談で『盟くんが将来、ウチのそば屋を継いでくれるかな?』なんて言ったら、彼がその気になった、……って。まだ義兄にいさんが『あさ田』を継ぐために帰郷する前の話だ」
 
 父の話を聞きながら、年越しの瞬間の彼の姿を見ることも忘れてしまうくらい、わたしの頭の中は真っ白になってしまっていた。
 
 盟は、覚えていた。
 母の実家のそば屋『あさ田』のことも。
 幼かった自分がプロポーズした相手の女のコが『さーちゃん』ということも。
 それに加えて、父からの決定的な証言。
 
『Hinataの中川盟』が、『幼馴染のメイくん』。
 
 彼がデビューした頃から、『もしかしたら……』とずっと思ってた。
 だけど、それは彼が『遠い存在』だからこそ、そう思っていられたのであって。
 彼の飲むミルクティーの砂糖の量や、湯船の設定温度の好みを知るほど『近い存在』になった今。
 
 ――――知りたくなかった。
 
 盟が『メイくん』かどうか、なんて、もうどうでもよかった。
 ……ううん、正確に言うと、『メイくん』じゃなければいい、と思ってた。
 
 盟はわたしを『彼女扱い』してくれてるけど、『愛されてる』とは思えなかった。
 
 抱きしめられたり、唇を重ねたり……その先も、全部。
 わたしじゃない、『誰か』を見ているような気がして。
 
 盟が、わたしとの『将来』をまったく考えていないことも分かってる。
 
 まだ付き合って半年だから、とか。
 彼の職業がアイドルだから、とか。
 そんな、表面的な理由だけじゃない……ってことも。
 
 それでも……わたしは、盟のそばにいたい。
 想い出の中の幼馴染じゃなくて、居酒屋で出会った28歳の彼のそばに。
 
 都合よく扱われてるのでも構わない。
 いつか訪れる『別れ』も、自分の中で受け入れられると思うから。
 
 ――――それなのに。
 
『ケッコンの約束をした想い出の幼馴染と大人になって再会』なんて、ドラマや少女マンガみたいな出来事が、こうして現実に起きて。
 どうしたって『ハッピーエンド』を期待してしまう。
 
 彼が見ている『誰か』を彼自身が乗り越えなければ、たどり着けない場所なのに。
 
 
 

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