12 始まりました、今週の『しぐなるパラダイス』

『――はい、今週も始まりました、しぐなるパラダイス。略して『しぐパラ』って言いますけど』

 テレビの電源を入れると、ちょうど番組が始まったところだった。

 今日は彼女がレギュラー出演している『しぐパラ』の放送日だ。
 昔からこの番組は好きでよく観ていたけど、最近は仕事があって観られない日でもきちんと録画してる。
 今日も自宅のレコーダーが録画してくれてるはずだけど、できればリアルタイムで観たい。

 彼女に先にお風呂に入ってくるよう勧めたのは、この『しぐパラ』を一人で観るためだ。
 別に彼女と一緒に観ても良かったんだけど、彼女自身はそういうのは好まないんじゃないかな、と思って。

『みなさん、どうですか? 最近、何かおもろいことありました?』

 番組のオープニングは毎回、コンストラクションの阿部さんの仕切りで、『しぐパラ』のレギュラー陣が近況を報告し合うことから始まる。

 一人、また一人とやりとりが続いた後、やがて彼女に話す機会が回ってきた。

『道坂サンはどうです? 変わったこと、あります?』
『私? ……べ、別に、何もないわよ』
『そうですか? いや、実はね、最近、道坂サンの様子がおかしいって話、聞きますけど』

 阿部さんが言うと、すかさず白井さんという女性お笑い芸人が、

『そうなの。道坂さんね、最近、妄想癖がすごくて』
『妄想癖?』

 レギュラー陣が口をそろえて訊ねる。
 すると、彼女が慌てた様子で、

『ちょっ……白井さんっ、テレビで言っちゃだめよ!』

 白井さんの口を塞ごうとしたものの、他のレギュラー陣に取り押さえられてしまう。
 その隙に、白井さんは話を続けた。

『ちょっと前からね、『某男性アイドルとお茶した』とか『食事に行った』とか、そんな妄想をね、いかにも現実にありましたみたいな感じでしゃべってくるんです』
『ええっ、道坂サンが? 男性アイドルと?』
『しかも……しかも、ですよ。この間なんて、とうとう『キスした』とか言い出して……』
『キキキ、キスぅ!? だ、誰やねん、その某男性アイドルって!』
『白井さんっ、言っちゃダメ-!!』

 彼女が大声を上げてかき消そうとするものの、他のメンバーに口を塞がれてしまう。
 白井さんは、とうとうその『某男性アイドル』の名を言ってしまった。

『XXXXXXの、XXXXXXXくん』
『えええっ!? XXXXXXの、XXXXXXX!?』

 スタジオ中が騒然とするかと思いきや、レギュラー陣はみな大爆笑で、

『そりゃ、絶対にあり得へんやろ! XXXXXXの、XXXXXXXって言うたら、あれやろ? この間、抱かれたい男ランキングで一位だった、あいつやろ?』
『XXXXクンとキスするとこなんて、全国の女性の大半が妄想しますよ。みんな妄想するけど、そっと心の中にしまっとくんです。それをホンマのことのように語ったらあきませんよ』
『いや、でも、だって、ほんとに――』
『道坂サン、まだ言う? あ、そういえば、前に道坂サン、XXXXクンの事務所から大目玉くらってましたよね。この番組でXXXXクンに風邪引かせたって。放送されてないから、視聴者の方には分からん話やけど。そういうことがあったんですよね』
『そうや、思い出した。あんとき、番組のプロデューサーもオレらも、あの事務所からいろいろ言われて大変やったんやで? おかげで、あれからしばらく『しぐパラ』にはあの事務所からの出演はナシや』
『……でも、あれは私がワザとやったわけじゃ……』

 彼女が力なく反論するも、主に阿部さんと花本さんからの口撃は止まらない。

『それは分かってるよ。XXXXクンが優しいから助けてくれようとしはって……その結果の、いわば事故みたいなもんや』
『そうやな』
『それで道坂サンがXXXXクンに惚れてまうのは、分かりますけど、だからって妄想をあたかも現実のことのように他人に話したらあきませんよ。妄想なら妄想ってハッキリ言わんと』
『あんまり言うたら、またあの事務所から怒られるで? 今度はマジで潰されるかも分からんで?』
『そもそも……何? 道坂サン、なんで今更そんな『モテる風』を装うんですか? 芸風変えるつもりですか?』
『っていうか、そんなキャラ変更はいらんねん。そんな道坂なんて見ても、おもろないやろ』
『道坂サンは、今のまま、『モテへんキャラ』でいいんですって。モテモテの他の女のコたちを僻んで口撃してるんが、道坂サンらしくていいんですって』
『そやねん。『モテモテの道坂靖子』なんて、いらんんねん』
『えー、そんなわけで。じゃあ、そろそろ最初のコーナーにいきますか。今週は――』

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