16 誰も信じてくれなくても

「道坂さん、ちょっと日焼けした?」

 東京へ戻った次の日。
 お昼の生放送バラエティー番組『ええとも』の楽屋で、白井さんに声をかけられた。
 白井さんとは『しぐパラ』での共演も長いけど、この『ええとも』にも同じタイミングでレギュラーメンバーになった。
 コンビを組んでる訳じゃないし、事務所も違うんだけど、なんだかセット売りされてるような感覚。

「え、焼けてる?」
「赤くなってる。珍しくない? ズボラで日焼け止めも塗らないのに色白だけはキープする驚異的な肌の持ち主の道坂さんが」
「褒めてるの? けなしてるの?」
「日サロにでも行った?」
「行くわけないでしょ」

 昨日買ったお土産を手渡すと、白井さんは包装紙に書かれた文字を見て、

「佐久島? ってどこ?」
「愛知県」
「……どこ?」
「名古屋があるとこ」
「道坂さんの地元の?」
「そう。でも帰省した訳じゃないんだけど」
「じゃあ旅行? 一人で? 寂しいわねぇ」
「……誰が『一人で』なんて言ったのよ」
「はい、始まった。妄想タイム。一人で旅行しながら妄想とかどんだけ病んでるの」
「だから、妄想なんかじゃないんだってば」
「分かった、分かった。話は聞いてあげるから。で、今回の妄想のお相手は誰だって?」
「誰って……」

 ――コンコン。

「失礼しまーっす」

 ガチャッと楽屋のドアが開いて、現れたのは……。

「道坂さん、白井さん、おはようございまーす。今日はよろしくお願いしまーすっ」

 聞き慣れた声。見慣れた顔。
 だけど、ちょっとだけ違和感のある『営業スマイル』。

 りょ、諒くん!?
 予定では今日も仕事は休みのはずじゃ……?

「あら、Hinataの高橋くんじゃない。高橋くんも今日、『ええとも』に出るの?」

 白井さんが聞くと、諒くんは営業スマイルを保ったまま、

「はい、テレフォンフレンズに。昨日、直くんからご指名もらって」

 テレフォンフレンズっていうのは、一応説明しておくと、ゲストが自ら電話を掛けて次のゲストを指名するという、名物コーナーのこと。
 民宿を出る直前にかかってきたという電話は、昨日出演していた樋口くん(諒くんと同じHinataのメンバーよ)からのバトンだったわけね。

「昨日までオフで出かけてたんで、これ、よかったらみなさんでどうぞ」

 諒くんは後ろ手に持っていた紙袋から、箱を取り出した。
 昨日、連絡船に乗る前に一緒に買ったお土産だ。
 受け取った白井さんは、包装紙に書かれた文字を見て、

「へぇー、高橋くん、佐久島ってところに行ってたんだぁ。……え? 佐久島?」

 白井さんの右手には、いま諒くんから受け取った、佐久島のお土産。
 反対側の手には、さっき私が渡した、佐久島のお土産。
 その両方の箱と、諒くんの顔と、私の顔を何度が順番に見つめると、さすがに驚いた顔で、

「こんな偶然ってあるのねー。道坂さんも行ってたんだって、佐久島」

 と、私が渡した方のお土産を諒くんに見せる。

 これで妄想疑惑も晴れるかしら。
 いや、でも、それはそれで諒くんに迷惑がかかっちゃうわ。
 どういう方向に取り繕ったらいいんだろう。
 慣れないシチュエーションに、一生懸命考えを巡らせていると、諒くんが一言。

「実は、一緒に行ったんだよね」

 何も取り繕うことなく、事実をドン。
 しかも、やさしく私の肩を抱き寄せて。

 諒くんの言葉を聞いた白井さんは、さらに驚いた顔を……しなかった。
 大げさ過ぎるくらい手を叩きながら爆笑のポーズで、

「高橋くんってばノリがいいわねぇ、そんな冗談が言えるなんて。わたしたち芸人、商売あがったりだわ」

 たまたまやってきたスタッフと一緒に、楽屋を出ていってしまった。

「……ちょっと、何なのよ。諒くんは冗談なんか言ってないのに」
「そうだね。でも、まあ、いいんじゃない?」

 不機嫌な顔で楽屋のドアを睨み付ける私に、諒くんはやさしく笑った。

「誰も信じてくれなくても、真実はひとつ……でしょ?」

 目を閉じて、私の頭をくしゃくしゃっと撫でたかと思うと。
 ちゅっ……と。
 諒くんの唇が、わたしのおでこに軽く触れる。

「みっちゃんは、みっちゃんだし、道坂さんは、道坂さんだよ。それもまた、真実」

 そんな謎の言葉を言い残して、諒くんは楽屋を後にした。

 ……やっぱり、諒くんのことは、まだまだよく理解できない。

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