Tiny Promise

 ぼくの家の前にあるこうえんの、はしっこにある『ふじだな』。
 柱をよじのぼって、葉っぱでできたてんじょうから顔をだすと、そこには、ぼくの『およめさん』が、晩ごはんを作りながらぼくの帰りをまっていた。

「ただいまぁー」
「おかえりなさいっ。おしごと、おつかれさまっ」
「もー、ほんとにつかれたよ。カチョウがどうしても、『のみにいく』って言うから、つきあってやったけど、あのひと、ブチョウのグチばっかりでさぁ」

 ぼくは、いつもパパがママに話していることと同じことを言いながら、『ふじだな』の上にしかれているダンボールに寝ころがった。

「あっ、メイくんっ! ちゃんと、きがえなきゃダメでしょっ!!」
「……えぇ~? そこまでやんの? めんどくさい……」
「メイくんのパパは、おしごとから帰ってきても、おきがえしないの?」
「んー……。っていうか、ほとんどパンツだけになる」
「えっ?」
「さーちゃんが、そこまでマネしろっていうなら、するけど」

 立ち上がってズボンをぬごうとすると、さーちゃんはあわてて、

「やだやだやだっ! ほんとにぬいじゃダメっ! マネっこだけっ!!」
「だから、マネっこするん……わわわっ!! ちょっ……押さないでよっ!! おっ……落ちるっ!!」
「――――こらぁっ! めいっ! 藤棚に上っちゃ駄目だって、何度も言ってるでしょうっ!? 降りなさいっ!!」

 声がきこえたのは、『ふじだな』の下。
 ふじの葉っぱをかきわけて、下を見ると……うわぁっ、ママがめちゃくちゃ怒ってるっ!!

「……やーだよっ! だって、さーちゃんが『おままごと』したいって言ったんだもん」
「ほら、また盟はすぐ他人のせいにするっ。紗弥香さやかちゃんも、危ないから降りてらっしゃい」
「ねぇ~、ママ、もうちょっとだけ。だって、さーちゃんが作ったごはん、まだ食べてないからさぁ」
「『だって』じゃないのっ! ご飯なら、もうすぐお昼だから、紗弥香ちゃんのママがお蕎麦作ってくれてるわよ。だから、降りてきなさいっ」

 ママはコシに手をあてて、ぼくとさーちゃんがいる『ふじだな』をにらんでいる。

 ……わかってないなぁ、ママは。
 さーちゃんのおうちのおそばも、そりゃぁおいしいけどさ。
『さーちゃんが作ったごはん』が食べたいんだよ、ぼくは。
 この、シロツメクサとクローバーで作った……。

「さーちゃん、きょうの、このごはんって、なに?」
「おそばだよっ」
「おそば?」
「うんっ。だって、メイくん、サヤのおうちのおそば、だいすきでしょ?」

 さーちゃんは、シロツメクサとクローバーがはいっている、お砂場セットのザルをぼくに差し出して、ニコッとわらった。

「……うん。だいすき」
「こっちは、天ぷらね。それで、これがわさびっ」

 『ふじだな』にぶらさがっている豆さやの『天ぷら』と、オオバコの『わさび』もザルの上にのっける。

 いつか、食べたいとおもってる、おとなの味。『天ざるそば』。
 コドモのぼくたちは、なかなか食べさせてもらえないんだよ。
 しかも、『わさび』までつけてくれるなんて。
 やっぱ、さーちゃんは、ぼくのこと、わかってくれてる。

 これがホンモノだったらいいのになぁ……。

「さーちゃん、あのさ……」
「ん? なに?」
「その……おそば、作ってほしいんだけど」

 ぼくが言うとさーちゃんは、ん? と首をかしげて、

「おかわりなら、まだたくさんあるよっ。ほらっ」

 と、バケツに山もりになってるシロツメクサを指差した。

「そうじゃなくてっ。さーちゃんのおうちの、ホントのおそば、作ってよ」
「サヤのおうちの? ……ムリだよっ。だって、サヤ、まだコドモだもんっ」

 言いながら、さーちゃんは、ぷぅーっとほっぺたをふくらませて、でもすぐに、顔がくしゃくしゃってなって…………あぁぁ、なんで泣くかなっ!?

「じゃっ、じゃあさ、おとなになったら……だったら、だいじょうぶだよね?」
「……おとなに、なったら?」
「あっ! そうだっ! このあいだ、さーちゃんのママに言われたんだっ。ぼくに、『あさ田』の『アトツギ』になってくれ、って。『アトツギ』ってさ、そのおうちの人になるってことでしょ?」
「……そうなの?」
「うん、そうだよっ。だから、ぼくたちがおとなになったら、ケッコンすればいいんだ。そしたら、さーちゃんがおそば作ってさ……。ぼくも、たくさんおそば食べれるじゃん」

 ぼくが言うと、さーちゃんは、そういうことかぁ、とうなずいて、

「メイくんって、すごいっ。かしこいねっ」
「だろっ? じゃぁ、決まりっ! 『ゆびきり』しようっ!!」

 言いながら差し出したぼくの右手のこゆびに、さーちゃんも、こゆびをきゅっとさせた。

「さーちゃん、おとなになったら、ぜったいケッコンしようね。やくそくだよっ」

 ぼくが言うと、さーちゃんは、ちょっとだけはずかしそうに、わらった。

「――うんっ。ねぇ、メイくん、これって、たしか、『スワローズ』て言うんでしょ?」

 ……ん? 『スワローズ』?

「それ、やきゅうのチームのなまえだよ。それを言うなら、『マルチーズ』だろ~?」
「えぇ~~? 『マルチーズ』って、ネコだよぉっ!」
「――盟っ。めーいっ」

『ふじだな』の下から、また、ぼくを呼ぶママのちいさな声がきこえる。
 あぁ……すぐにおりていかなかったから、こんどこそ、怒られるぅ……。

 そーっと、葉っぱをかきわけて『ふじだな』の下を見ると、手でおでこのところにやねをつくって『ふじだな』を見上げるママは、ちょっとだけ赤いかおして、わらうのをガマンしてるみたい。

「……ママ、なに?」

「や……『マルチーズ』って、犬だし。それに、……たぶん、あなた達が言いたいのは、『プロポーズ』のことじゃないかしら?」
「えー? なに? 『マヨネーズ』? それはごはん食べるときにつかうんだろーっ」
「だから、『プロポーズ』だってば。……それから、盟、親に向かって『--だろ』とか言わないのっ。とにかく、そこから降りてきなさいっ!!」
「ああああっ! ケンタっ! ずるいっ!!」

 こうえんのいりぐちを指差して、きゅうにおおきな声でさけんださーちゃんは、するするっと柱をつたって『ふじだな』からおりた。

 つづけてぼくも『ふじだな』からおりると、さーちゃんは、もうこうえんのいりぐちにいる(はやいなぁ……)。

「なんで、ケンタだけアイス食べてるのっ!? ずるいよっ!!」
「だって、もうおひるごはん食べたもん。おねーちゃんがおそいのがわるいんだろっ」
「いやぁ~~っ! アイス、とけてるっ!! さわらないでよっ、サヤのふくまでよごれちゃうっ!!」

 ケンタのあたまをバシッとたたいたさーちゃんは、ぼくのほうへとふりかえり、『おいでおいでっ』と手をふって、

「メイくーんっ! はやく、ごはん食べよ~っ! あとで、アイスもいっしょに食べようねっ!!」

 と、いつもとおなじようにわらって、ケンタをひきずりながら、さーちゃんのおうちのおそばやさん『あさ田』のほうへとあるいていった。

 そんなふたりのあとを、ぼくはママといっしょにのんびりゆっくりとあるく。

 さーちゃんの作った『ホントのおそば』を、いつかぜったい、食べるんだ。
 だいすきな『あさ田』のおそばを、だいすきなさーちゃんに作ってもらったら、きっと『せかいでいちばん』おいしいに決まってる。
 はやく、おとなになりたいなっ……と、まいにちまいにち、かんがえる。

 6歳のぼくの、ようちえんさいごの、なつやすみ。
 

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